木牛流馬は動かない

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1年間アイドルヲタクをやってみた

もうタイトルだけで「ヲタクなめんな」と本業の方々から怒られそうな感じですが、やってみたのでまとめておきます。

きっかけ

2年ほど前にひょんなことから知り合った友人がいます。 話してみると音楽やらマンガやらで趣味が合うことがわかり、すっかり意気投合しました。

ある日、彼ととあるアイドルについての話題が出ました。 私はアイドル業界には詳しくないのですが、そのアイドルのことはたまたまTVで見たことがあり、知っていました。

そこで、私はアイドルヲタクになってみることにしたのです(飛躍)

追っかけたアイドル

ターゲットとなったアイドルは、寺嶋由芙(てらしま・ゆふ)さん。通称「ゆっふぃー」。 「古き良き時代から来た、真面目なアイドル、真面目にアイドル」がキャッチコピーの、長い黒髪が特徴的な大和撫子です。ちなみに、重度のツイ廃。

きみが散る (初回限定盤)

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私が知ったきっかけは、彼女がみうらじゅんゆるキャラ番組に出演していたことです。 彼女は、ゆるキャラにたいへん造詣が深く、成田市ゆるキャラ「うなり君」と結婚(婚約だっけ?)していたりします。大学の卒論もゆるキャラ関連という徹底ぶり。

上記の友人から、ちょうど彼女のCD販促イベントが行われると聞き、一緒に行ってみることにしました。何事もお試しです。

※寺嶋由芙さんの最近の活動については最後に簡単に紹介します。

リリイベ参加

アイドルが、たとえば新曲のシングルCD発売を発表したとします。 すると、アイドルは発売日までの期間、いろいろな地域へ飛びまわって、新曲のプロモーションを行います。 これがリリースイベント、通称「リリイベ」の始まりです。

すこしリリイベの内容を見てみましょう。

ミニライブ

リリイベでは、歌ったりトークしたりといったミニライブと、その場でCDを購入したファンが参加するアイドル本人との握手会などが行われます。1

まずは新曲、既存曲あわせて4〜5曲とトークのミニライブ。 これが、30分〜1時間弱、行われます。これは参加したことがなくても、まぁイメージしやすいと思います。

ミニライブの特徴は、なんといっても、ヲタクの皆さん2。 ヲタクは、お決まりの合いの手(掛け声)と振り付けで、リリイベを盛り上げます。 一般的には、あの激しい動きのヲタ芸が有名ですが、そこまでやる人は(あんまり)いません。

ここで気づく人もいるかもしれませんが、もちろん新曲のプロモーションイベントなので、その曲をファンが知っているわけがありません。 なにしろ、まだ発売されていないのですから。

しかし、これこそヲタクの腕の見せどころ(だそう)です。

リリイベは、発表から発売日までの期間、何度も続きます。 コアなファン層を中心に、YouTubeの販促用ショートバージョンで曲を覚え、 リリイベの回数を重ねるごとに、合いの手と振り付けが次第に洗練されていきます。

私が初めて参加したのはCD発売当日のリリイベでしたが、すでにヲタクの皆さんは新曲を完璧に覚えており、動きも完成されていました。

その時は、「…なぜ皆、今日発売の新曲を知っていて、合いの手も振り付けも完璧なのか?」と不思議でしかたがなかったのですが、後から聞いてみるとそういうことだったようです。

ヲタクすげぇ。

握手会

その後は、CD購入者のみの特典イベント。 CD1枚購入なら、ステージ上で一対一の握手とトークです。 これは、1人あたり約30秒~1分間。 CD全バージョン購入なら、一緒にチェキ撮影が含まれます。

仮に参加者が50人として、約50分。 運営側が思いっきり「巻き」つつ、ヲタクの皆さんは行儀よく並んで待ちます。

終わった人から順次解散ですが、半分くらいは最後まで残り、アイドルを見送ります。

さて、これで終わりかと思いきや、まだ続きます。 リリイベ終了後、2時間程度したら、ネット上の生放送配信サービス「SHOWROOM」での番組が始まります。 そこで本日の振り返りがあるわけです。徹底。3

これが、私が参加したリリイベの全貌です。

アイドルのビジネスモデル?

1回のCD発売ごとに、数十回ほどリリイベが行われます。 つまり、愛情深いヲタクほど同じCDを何枚も購入することになります。 新曲のたびに、ではありません。リリイベのたびに、です。

上記の私の友人は、あるCD発売のリリイベに計10回ほど参加し、毎回3バージョン(限定版A・B、通常版)を購入したそうです。ヲタクの鏡。4

もちろんアイドル側もわかっているので、リリイベ用スタンプカードを用意したりします。 一定枚数以上たまると、スペシャルイベントに招待があったり、限定グッズがもらえたりします。

一昔前のAKB48なんかはCDパッケージの中に握手券を入れていたので、握手券だけが抜きとられてCDが捨てられるという事態が発生し、問題となったことがありました。

しかし、このやり方ならば、1回のリリイベでどれだけたくさん購入しても(3枚以上は)意味がない。 ヲタクがアイドルと交流する機会を増やそうと思うならば、次のリリイベに来るしかないわけです。巧妙。

これ誰かビジネスモデル図解してくれませんかね。

みんなで作り上げるアイドル

私が追っていた1年強のうちに、寺嶋由芙さんは3枚のCDシングルをリリースしました。 私も、それぞれの発売日だけ、合計3回リリイベに参加しました。5

そこでわかったこと。 (ここから、ちょっと一般論なので「ファン」と呼びます)

ファンは、ただ歌って踊る可愛い女の子を見たいだけじゃない、のでは?ということ。

ファンはアイドルを応援することに楽しみを見出している人々ですが、その実態は応援というよりも、アイドルと一緒にアイドルを作り上げる人々なのです。

リリイベでは、ファンの皆さんは運営に積極的に協力し、行列整理を手伝ったりする光景がよく見られました。なぜなら、ファンの行動がアイドルの質につながるから。

どういうことかというと、たとえば私のように新参者がやってきたときの印象が変わるのです。 アイドル本人に対しては、そりゃあ期待して見に行くので、よっぽどでない限り悪く思うことはないと思います。 しかし、一緒に見る(既存の)ファンの態度が悪いと、アイドルの評価も下がってしまいかねないのです。 ファンはそれがわかっているので、アイドルを貶めるようなことはしません。

ヲタクは、本当はジェントルメンなのです!だからこそアイドルに走っているとも言(略

意外だったのが、若い女性のファンも少なからずいること。 おっさんばかりかと思っていたら、そんなことはなく、3割ほどは女性客の印象。 アイドルのイラストを描いて本人に手渡し、他のファンもそれに拍手を贈る、という心温まる光景も見られました。

私の感覚では「会いに行けるアイドル」は、まだファンとの距離は若干あったように思っていました。 しかし、いまやアイドルと事務所とファンが一体となって、「アイドル」を育てていくコミュニティとなっているのです。

アイドルの成長を見守るコミュニティがあった

アイドルはCDが売れたり知名度が上がったり、次第にアイドルとして成長していきます。

一番わかりやすい例が、リリイベを行う場所。

東京が活動の中心の場合、 最初のリリイベは、関東の田舎街のショッピングモールあたりで、こぢんまりやります。

そのうち知名度が上がってくると、渋谷タワーレコードなんかのイベントスペースでやるようになります。タワレコがもはや最先端でも先端でもないことは言わないでおくところです。

さらに売れてくると、北海道や九州のCDショップなんかにも行ったりするようになります。 ときには満を持して、比較的大きな会場でのライブも行います。

そうしてアイドルが成長すればするほど、ファンは「自分たちが応援してきたおかげで、ここまできた」と満足感が得られるわけです。 それは、一般にイメージされる倒錯した偏執的な愛情というよりは、達成感と、もしかするとある種の「親心」みたいな感情も含むかもしれません。一体感もあると思います。

もちろんアイドル本人が頑張っていることも、そういったことを狙っている事務所の戦略もあることも、皆承知の上。しかし、少なくともリリイベで交流したファンの方々からは、まったくネガティブな感情は受けずに、上記のような印象を抱きました。

この辺が理解できると、『アイドルマスター』や『ラブライブ』、あるいは、アイドルでなくてもメジャーシーンよりもインディーズバンドに注目が集まっていることも理解できる気がします。 みんな、自分で育てたり、成長に参加したいということですね。 ただし、リアルな場で、現実のアイドル相手に、ファン同士の仲間もいる、というのも大きい要素であるように思えました。

まとめ

本やCDが売れなくなった、という話はよく聞きます。 それはユーザーが、ただコンテンツを提供されるの(を待つの)ではなく、体験・参加型を求めるように変わったから、という分析もよく見かけます。

インターネットの普及により、いつでもどこでも誰でも手に入るモノや情報は、もはやその価値を失っています。もう少し正確には、(それ単体では)あって当然のものとして認識されています。

一方、いま、この場で、同じ嗜好/志向/思考をもつ仲間たちと一緒にしか味わえない体験は、その価値を上げています。

数年に1回の日蝕を見に行く、海外の珍しい祭りに参加する、ロックフェスに参加する、無名なアイドルを本人と一緒に育て上げていく。

そうしたコミュニティがあると知って(コトバの上では数年前から言われていたことですが)、それを本当に体験してみたら、いろいろと知らなかった社会の一面が見えてきました。

あえて厳しく言うなら、それでも応援するだけなので、自分でなにか始めるよりもお手軽に責任感なく参加(することも)できることも大きいかもしれません。エンターテイメントなので、それが悪いとは思ってません。6

この流れは、IT革命の熱狂と混沌からの覚醒なのか、衰退する社会の始まりなのか、新しい時代の萌芽なのかは、今はまだわかりません。

おすすめリンク

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「ノート貸して」が言えなかった私たち 寺嶋由芙 × 箕輪はるか(ハリセンボン)対談 <前編> https://www.waseda.jp/inst/weekly/features/specialissue-friend1/

リア充VSぼっち」を乗り越えて 寺嶋由芙×箕輪はるか(ハリセンボン)対談 <後編> https://www.waseda.jp/inst/weekly/features/specialissue-friend2/

オフィシャルブログ 寺嶋由芙オフィシャルブログ「ゆふろぐ(゚ω゚)」Powered by Ameba


  1. 私は他のアイドルさんのリリイベに行ったことがないので、普通どんなもんかは知りません。

  2. 寺嶋由芙さんはファンの方々のことを、親しみを込めて「ヲタク」と呼びます。

  3. SHOWROOM上で「ネットサイン会」なる催しも開かれたりしてます。

  4. 私の購入枚数は、CDシングルあたり通常版1枚。合計3枚です。なんかすみません…

  5. 『天使のテレパシー』『わたしを旅行につれてって』『知らない誰かに抱かれてもいい』の3枚です。

  6. 私は、寺嶋由芙さんのヲタクを別にやめたわけではなく、ゆるく応援しつづける所存であります。