木牛流馬が動かない

テクノロジーや気付きによる日常生活のアップデートに焦点をあて、個人と世界が変わる瞬間に何が起きるのかを見極めるブログ。テーマは人類史、芸術文化、便利ツール、育児記録、書評など。

書評『やる気クエスト』

『やる気クエスト』全6巻

純コミックス
岡野純 (著)
佐々木正悟 (著)

やる気クエスト(6) (純コミックス)

やる気クエスト(6) (純コミックス)

★★★★☆

気付いたらTwitterばかり見てしまっているアナタ、必読です。

あらすじ

「やる気を出す方法」がファンタジー漫画でわかる!(全4〜5巻で完結予定)

会社員ジュンが迷い込んだのは、魔王によって「やる気」を奪われた人々の世界。 「やる気」はいつ、どのようにして奪われているのか? 「やる気」を取り戻す方法はあるのか?

魔王の正体と真意に近づくにつれて、ジュンとその仲間たちは「やる気」に関する驚くべき真実に気付いていきます。

Kindle年間ベストセラーにもなった『マンガでわかる!幼稚園児でもできた‼︎タスク管理超入門』の著者・岡野純と、『先送りせずにすぐやる人に変わる方法』など50冊以上のビジネス著者であり認知心理学のエキスパート・佐々木正悟が贈る「やる気」をめぐるファンタジー漫画がここに登場!

やりたいことがあるのに、どうにもやる気が出ないというあなた。 やるべきことがあるのに、ついつい他のことをしてしまうというあなた。 ぜひあなたもジュンたちと一緒に、「やる気」の秘密を解き明かしてみませんか?

Amazon作品紹介より

仕事に趣味に勉強に、日々やるべきことは盛りだくさんです。 しかし、つい別のことをやってしまう。

思い通りにやる気を出すのが難しいのは、皆さんも日々感じていることではないでしょうか。 「そんなことはない、オレは毎日あふれるやる気を使いこなしているぜ!」という方は、本書は必要ありませんので、別の記事でも読んでいってくださいませ。

さて、そのやる気をどうすればコントロールできるか。 そのスキルをストーリー仕立てで分かりやすく身につけることができるのが、本書『やる気クエスト』になります。

実は、著者ブログを以前から読んでいたので、制作中に数ページずつ公開されていたのは知っていました。 途中で追うのが止まってしまっていたのですが、つい最近Kindle Unlimitedで発見。 これは読むしかない。数時間でイッキ読みしました。

やる気はあるんだよ

まずはなぜやる気が出ないか、を考えていきます。 本書では「やる気を奪われる条件」と表現されていますが、どんなものがあるでしょうか。

  • やったことがない、やり方が分からない
  • 簡単すぎて自分がやるまでもないと思っている
  • やりたくはないけど、やらなきゃいけないから、イヤイヤながらやる
  • やったところで意味がないと思っている

思い当たるものが最低1つはあるのではないでしょうか。 これらはやる気のなさの原因であると同時に、やる気を出すための重要なヒントになっているのです。

「やる気を出す地図」を完成させて、やる気をコントロールしよう!

標題の「やる気クエスト」とは、空白だらけの「やる気を出すための地図」を埋めること。

f:id:euphoniumize-45th:20180219215221p:plain 本書より引用。初期版とはいえ空白すぎでは?

そのために主人公(勇者)は、やる気のないチームメンバー(剣士、魔法使い、武闘家)とともに旅に出ます。 コテコテのファンタジーです。こういうの好き。

本書のクエストの優れたところは、ファンタジーだけでは「やる気を出す地図」は埋まらないこと。 ファンタジー世界で身につけたやる気のスキルを、リアル世界でも同じように実践しなければ、身につかないのです。

冒険を続けるうちに、勇者はやる気についていくつかの真実を発見します。

もし「やる気」が増えたり減ったりするものだと言うのなら… 「やる気がない奴」はやる気を「出さない」んじゃなくて 量が足りなくて「出せない」だけだった可能性がある!

第4話「やる気のない人とある人の違い」より

そもそも、やる気はある/ないの二値ではなく、増えたり減ったりするものだそうです。 これはまぁ感覚的にそうかなと思いますが、私にとってはまず、やる気を「量」で測ることが驚きでした。

やる気そのものを数値化するわけではありませんが(単位もないし)、やる気を出すための周囲の環境や条件を数値化することはできます。 そして、自分の行動も。

そのためには、まずは記録が必要になります。 昔から人類は記録と分析を繰り返して発展してきたわけですが、現代のデジタル技術はこの点を超効率化したわけで、これを使わない手はありません。これこそIT革命の一番の恩恵ではないか、とすら思えます。 では、どんなツールで記録していくかというと、それは本書にて。ヒントはGTD

そして記録を分析し、ルールを抽象化し、ノウハウとして一般化していく。 ごくごく当たり前の流れですが、これをあらゆる角度から繰り出すことで、やる気の正体を見極めていこうというわけです。

(やる気がない)

やる気が出た時の条件を記録、分析、仮説を立てる

仮説に基づいて実験し、仮説を検証する

やる気について理解する

やる気のコントロールを理論に基づいて実践

次のステップへ

これは私が勝手に並べただけですが、これを見て分かるように、しっかりと論理立ててやる気について分析しています。認知心理学の裏付けもあるようですし、自分の感覚とも合うことから、だいぶ正確なやる気の研究成果ではないかと思います。

分析だけでなく、主人公たちはクエストをこなしながら1つ1つ「やる気を出すための地図」を埋めていくことで、「必要なやる気の量」を把握し、コントロールすることができるようになっていきます。

本書では「今の」やる気の分析だけでなく、長期的なやる気についても触れられており、これは本当にありがたみしかないです。

もうね、本当は全部の内容をこの場で書き散らしたいんですが、ネタバレになりすぎるので。 気になる方は本書を読んでくださいませ。

まずは5分だけ

とか書いておきながら早速1つネタバレしてしまいますが、本書では可視化の方法としてタスクシュートを使います。

やはりタスクシュートに代表されるGTDベースのツールが分かりやすい。 基本に忠実なやり方のほうが、結果的に長期に渡って使えるものです。

まぁ、私はタスクシュートは(試しましたが)使ってなくて、「今のやる気」を出すためにはBoostenote、「長期的なやる気」のためにはTrelloを使っています。テヘペロ

さて、本書で個人的に一番共感したのが、「始めてしまえばやる気は出る」というフレーズ。

洞窟を「攻略する」やる気を事前に出せなくても… 洞窟に「入ることだけ」にやる気を使えるればいい! つまり「終わらせよう」とするのではなく、「始めよう」とするだけで良かったんだ!

第17話「やる気の洞窟」より

仕事で重たいタスクが控えている時など、「腰が重い」ことがどうしてもあります。 このブログを書くのも、好きでやっていることですが、やる気が出ないときもありますし。 そんなとき、最近は(なるべく)このフレーズを思い出すようにしています。

始めてしまえば、やる気は自然と湧いてくるんです。 これは感覚として皆さんも分かるんじゃないかと思いますが、ほんの少しだけ、5分だけ、先っちょだけ、というわけです。 始めるハードルを思いっきり下げてみるというノウハウです。

もしこの「最初の5分」でちょっと気になって部屋の掃除なんか始めてしまうと、それは「脳への裏切り」となり、やる気が失われていきます。これがその場限りならいいんですが、習慣として続きかねないのが恐ろしいところ。

ちなみに私は最近『ドラゴンボール』を読み返しておりますが、PCの起動待ち時間とかに読み始めてしまうと、もう止まらないですね。 最近では、PCを起動しっぱなしにしたりスムーズな起動のための小ネタを仕込んだりして、なるべく妨害される余地をなくしていく工夫を考えています。 それにしても久しぶりに読み返したけど『ドラゴンボール』の面白さは、今でもハンパないですわ。

さて、脱線から戻ります。 「最初の5分」を無駄にしないために重要なのが、その5分で最初にやる作業をあらかじめ決めておくこと。 「始める」ことに対してハードルを思いっきり下げてしまうよう、あらかじめ最初にやる「小さな」作業を決めておくのです。 プログラミングを勉強したいならVisualStudioをスタートアップに登録しておく、というふうに、自動化してもいいかもしれませんね。

このことは、本書では勇者のモノローグとして語られていました。

「行動を具体化」して やる気を「行動」に使えるようになればいい! そうすれば、やる気を「転用」しないようになる 「はじめの5分」にやる気を使えるようになる!

第18話「やる気にまつわる伝説」より

まだまだ「最初の5分」をコントロールしてきれていない私は、クエストに旅立たなければならないようです。

まとめ

本書は、ライフハック本のつもりで読み始めましたが、「やる気」という感情の動きをキッチリと整理分析しており、むしろ心理学の本を読んだ感覚に近い感想をもちました。

なにより、著者が会社員をやりながらこれだけ素晴らしい作品を作り上げた、という事実にやる気をもらいました。比べるのもおこがましいくらいですが。

ところで、「やる気クエスト」ゲームアプリのリリースはまだですか?

やる気クエスト(1) (純コミックス)

やる気クエスト(1) (純コミックス)

書評『マンガでわかる地政学』(2) / 中国編

『マンガでわかる地政学

茂木誠 監修
武楽清・サイドランチ マンガ

マンガでわかる地政学 (池田書店のマンガでわかるシリーズ)

マンガでわかる地政学 (池田書店のマンガでわかるシリーズ)

地政学とは、一言で言えば、「地形によって国と国の関係がどんなふうに変わるのか考える」学問です。 地政学の概要については前回を参照。 euphoniumize-45th.hatenablog.com

前回はシーパワー国家としてイギリスについて学んだので、今回はランドパワー国家の中国を見ていきましょう。

※私は三国志は大好きですが、現代中国に関してはまったくのシロウトです。

目次 (再掲)

  1. 3つの国から見た世界
    1. 海洋国家アメリカは孤立した島だった!?
    2. イギリスがオフショアから望む景色
    3. 分裂・分割を乗り越えて台頭するドイツ
  2. 日本の近隣4国から見た世界
    1. 陸と海に攻められる中国の地政学的宿命
    2. 強国に挟まれる朝鮮の受難と策略
    3. 封じ込められ続ける大国ロシア
  3. さまざまな国から見た世界
    1. シーパワーとランドパワー、二面性をもつフランス
    2. 半島の付け根であるために2度滅びたポーランド
    3. かつてのランドパワー大国トルコは親日国家
    4. 迫害を逃れて建国したイスラエル
    5. イランとの対立が激しいサウジアラビア
    6. 日米に急接近するアジアの大国、インド
    7. 地政学的リスクがもたらしたベトナムの苦難
    8. ブラジルから見た世界地図
  4. 日本から見た世界
    1. 陸海の脅威に揺れる自然に守られた島国

地政学的に中国を見てみると

ランドパワー国家とは

ランドパワーとは、大陸国家で陸続きの国境があるため、必然的に陸軍が強化され、陸軍主体になった国。 (中略) ランドパワーは広大な国土そのものが周辺諸国に対する防波堤になる一方、余力のあるときは海への出口を求めて膨張する。

本書「第2章 日本の近隣4国から見た世界」より

今回の中国や、ロシア、ドイツなどがその代表国です。 ついでに、対になるシーパワーもおさらい。

シーパワーは島国、海洋国家で、海上貿易に依存し、海軍中心の国家。 (中略) シーパワーはチョークポイントやシーレーンを保つためランドパワーの進出を抑えようとする。

本書「第2章 日本の近隣4国から見た世界」より

前回のイギリスや、日本、アメリカなどがシーパワー国家です。

地政学的な中国の歴史

まずは中国にとってのリスクを見てみましょう。 中国における地政学は、明(みん;1368~1644)の前後で大きく事情が変わります。

明朝以前は、中国の脅威はなんといっても、北方つまりモンゴル系の騎馬民族万里の長城がその象徴ですね。加えて、歴代の中国王朝は北方民族に贈りものをするなど、敵対しないように努めていました。しかし、財政圧迫からの農民反乱、そして王朝滅亡。中国の歴史はこの繰り返しであった、というのが本書の歴史観。 ちょっと単純化しすぎな気もしますが、まぁ昔のことだしツッコミません。

明朝以後、もっとも変わったことは、シーパワーの脅威が加わったこと。
大航海時代が始まったヨーロッパ各国の船がやってきたのです。 彼らは長い船旅を強いられ、かつ大きな金の動く商売でもあるので、軍備もしっかりされていました。 中国にとっては、ただ貿易だけしていれば良い相手かもしれませんが、残念ながら相手は帝国主義の手先。 また、倭寇などの海賊も増え、東シナ海周辺の海路の安全が保証されなくなっていきます。 そして清朝になり、19世紀末には中国は欧米や日露の各国の植民地となりました。

第二次世界大戦と冷戦を経て、本土は中国共産党が統一。 本土の共産主義/ランドパワーと、台湾の資本主義/シーパワー、という対立構図が生まれます。

その後のソ連崩壊をうけ、中国にとっては北方のリスクがなくなりました。 そのスキに、成長し続けているのが現在の中国になります。

本書でまとめられている中国の歴史を、ざっと要約するとこんな感じですかね。 いろいろツッコミどころがあるのは承知の上。

中国の強み

本書で紹介される中国の地政学的な強みのうち、代表的なものは以下。

  • 農業に適した大平原と大河をもつ、温帯の広い国土(世界第3位)
  • 世界人口の5分の1を占める、約13億人の人口
  • 9割が漢民族なので民族紛争のリスクは低い
  • 鉄、石油、レアメタル、など豊富な天然資源
  • 北方への天然の防壁となる砂漠をもつ、ウイグルチベット

戦略

中国は、ソ連崩壊以降、それまでのランドパワー国家からシーパワー国家へと変わるべく、戦略を組み直しました。 そして、それは現在まで続いています。 その施策のうち、地政学的に重要として本書で触れている項目は以下。

f:id:euphoniumize-45th:20180213004900p:plain 「一帯」がモスクワ通るの、無理矢理すぎやしませんか。。。

一帯一路構想

一帯一路構想は、中国からヨーロッパまで、陸・海の両方に現代版シルクロード(とそれを中心とする経済圏)を作ろうという大構想。 ロシアは協力的のようですが、インドが抵抗しておりモメているご様子。 あとはAIIBの先行きがどうなるかも関わるところですかね。 また、中国がアフリカ各国に投資を拡大しているのはニュースなどでよく見かけますが、「一路」の文脈で読むと理解しやすいかと思います。

一帯一路 - Wikipedia

ウィグルとチベットの併合

民族や宗教の問題も絡む地域ですが、今回は地政学。 この2地域は、中国にとっては「ロシアとインドという隣接する2つの大国に対して防壁的な役割を果たすバッファーゾーン」となります。砂漠があれば、まあ天然の要害にはなりますね。

しかし、私は知らなかったのですが、ウィグルには油田がいくつもあるようです。 そんなところが「防壁」って大丈夫なの?と思ってしまいますが、どうなんでしょう。

f:id:euphoniumize-45th:20180213211135p:plain 本書掲載の図。チベットのお隣は崑崙山脈封神演義の舞台でもあります。

周辺諸国との関係

これまでの説明は中国だけにフォーカスした話でした。 しかし、複雑な世界情勢のなかの中国を知るには、さらに朝鮮半島やロシアの事情も見なければなりません。 まあ、具体的な内容は本書にて。

上記リンクは、中国人が日本の土地を買いまくっている件について取材している記者へのインタビュー。 別に中国人が法を犯しているわけではなく、日本がザルなだけなのですが、なかなか危ういことになっているようです。

地政学的に見ると、日本は中国がシーパワー国家へ変わっていくための重要な足がかり。 もちろん仮想敵国はアメリカでしょう。ロシアもかな。 尖閣諸島東シナ海も同じ構図ですが、東アジアのパワーバランスにおいて日本は重要な位置にいることが、地政学的にも確認できます。 日本にとって中国の「一路」は、西沙諸島やインド洋など日本へ石油を輸送するためのシーレーンの安全が保たれない恐れにも繋がるわけですね。

あるいは、ロシアにとってシベリアは極東の重要拠点。 ここを中国に抑えられるのはうまくなく、そこで中国に対抗できる唯一の国が日本であることも、本書では触れられています。

東アジアに限らずですが、ある2カ国間で見ると対立していても、その周辺の第3国、第4国の存在を仮定すると(実際にいるわけですが)、戦略が生み出されるわけですね。

永遠の敵も永遠の味方もない、ただ永遠の利益があるのみ

日本だけでなく各国の立場を地形から理解することで、ニュースや本もまた違った見方ができるわけですね。 このあたりが具体的に知ることができたのが、本書の収穫でした。

それだけに、日本については事実なのか誰の意見か分からない記述が散見され、今ひとつ客観性に欠けるように読めてしまったのが残念でした。

まとめ

前回投稿後に頂いたご意見に、「時間距離1を考慮に入れているのか?」というものがありました。 正距方位図法はいいとして、じゃあその距離を移動するのにかかる時間はどうなんだ、というご指摘。
これはなかなか難しくて、どの時代の時間距離を考えるか、で結果が変わるわけです。 なぜなら、時代とともに(移動のための)テクノロジーが発達するから。 船の例ひとつとって見ても、造船技術、気象や海流の予測、地図と現在地特定の精度向上、など。
言われてみれば、たしかに本書では扱われていなかった視点でした(ご意見ありがとうございます)。 地政学は楽しいことが分かったので今後も追っていく中で、触れていきたいところです。 最後に、本書で紹介された地政学のポイントや定石、または個人的に琴線に触れたフレーズのまとめ(前回記載分に加筆)。

  • 国家の行動原理は生き残りである
  • 隣国同士は対立する
  • 敵の敵は味方
  • 利害が一致すれば仇敵とでも組む
  • 他国同士の紛争は大歓迎
  • チョークポイントは紛争多発地域
  • 半島の付け根を支配することは半島全体を支配することと同義
  • 対抗手段は「戦う」「防御する」「買収する」のいずれか
  • ランドパワーとシーパワーを同時に敵に回すと勝てない
  • 人口の多さは地政学的な強み
  • 永遠の敵も永遠の味方もない、ただ永遠の利益があるのみ(イギリスの格言)

とりあえず地政学は今回で一区切り。

参考

マンガでわかる地政学 (池田書店のマンガでわかるシリーズ)

マンガでわかる地政学 (池田書店のマンガでわかるシリーズ)


  1. 訂正。距離時間でなく時間距離でした。むむむ。

書評『マンガでわかる地政学』(1) / イギリス編

『マンガでわかる地政学

茂木誠 監修
武楽清・サイドランチ マンガ

マンガでわかる地政学 (池田書店のマンガでわかるシリーズ)

マンガでわかる地政学 (池田書店のマンガでわかるシリーズ)

地政学とは?

歴史を眺めていると、国同士のつながりや対立が当然のように紹介されていて、「あれっ、この事件はなんでこうなったんだっけ??」というのが腑に落ちない(忘れている)ことがよくあります。 ありません?

たとえば、豊臣秀吉朝鮮出兵。「日本を統一したから、もう新しい土地はないし、次は大陸へ出兵しよう」というシナリオは、(日本人にとっては)分かりやすいです。

世界史も理論としては同じなのですが、なにぶん各国の地理や歴史をくわしく知っているわけでもなく、なかなかイメージすることが難しい。 新しい土地について学ぶことは楽しいんですけどね、限度があります。

そこで地政学

地政学は、地理的条件から国家の行動を説明します。

本書 はじめに より

言い換えると、「地形によって国と国の関係がどんなふうに変わるのか考える」学問です。 まぁ、これだけではよく分からないので、実例を見ていくほうがよいでしょう。

正距方位図法

その前に、重要な前置きを。

本書は地政学の本なので、地図が豊富に提示されることは当たり前といえば当たり前。 本書の優れたところは、その地図が正距方位図法を多用していること。

maps.ontarget.cc

その名の通り、中心となる地点からの距離と角度を正確に表した図法です。 この図法を採用することで、自分のいる(または思考の中心となる)土地にとって世界がどう見えるのか、シミュレートすることができます。 ところで、Civilization正距方位図法を導入したらどうでしょう?

マンガ形式

そして本書はマンガ形式で解説もあるので、そこそこ分かりやすくなってます。 謎の家庭教師・坂本先生が、やさしく教えてくれます。何者?

坂本先生「地政学を知ると、国の行動基準やどうして争いが起こるのか?がわかるようになるの。それを知るための学問でもあるのよ」

プロローグより

このとおり、地政学の考え方は、国際的な政治・軍事面からのアプローチであることが特徴です。 まぁ、成り立ちも目的も、そのための学問ですからね。

大国の指導者が世界地図を見ながら考えていること追体験できる、エキサイティングな学問です。

本書 はじめに より

地政学、男子はけっこう好きなんじゃないでしょうか(偏見)

目次

  1. 3つの国から見た世界
    1. 海洋国家アメリカは孤立した島だった!?
    2. イギリスがオフショアから望む景色
    3. 分裂・分割を乗り越えて台頭するドイツ
  2. 日本の近隣4国から見た世界
    1. 陸と海に攻められる中国の地政学的宿命
    2. 強国に挟まれる朝鮮の受難と策略
    3. 封じ込められ続ける大国ロシア
  3. さまざまな国から見た世界
    1. シーパワーとランドパワー、二面性をもつフランス
    2. 半島の付け根であるために2度滅びたポーランド
    3. かつてのランドパワー大国トルコは親日国家
    4. 迫害を逃れて建国したイスラエル
    5. イランとの対立が激しいサウジアラビア
    6. 日米に急接近するアジアの大国、インド
    7. 地政学的リスクがもたらしたベトナムの苦難
    8. ブラジルから見た世界地図
  4. 日本から見た世界
    1. 陸海の脅威に揺れる自然に守られた島国

本書は「マンガでわかる」の通り気軽に読めるのですが、読んでみると意外と学ぶことが多く、自分メモを兼ねて短期連載で紹介したいと思います。

イギリス

イギリスの動向を見れば、世界の「次」がわかるといわれています。例えば、ブレグジットを魁に、独立運動が盛んなっている地域が多発していたり。
小国ながら19世紀には世界を実質的に支配したその地政学と外交戦略は、日本にも通じるところが多々ありますので、今回はイギリスを見てみます。

地形的な特徴と国家戦略

島国であることの特徴は、ざっとこんなところでしょう。 日本人ならば、鎌倉時代元寇を思い出せばイメージしやすいと思います。

  • 陸続きの国がないため、本土防衛に多くの軍隊を割く必要がない
  • 半島との間にある海峡が、大陸からの侵略に対して天然の防壁となる
  • 海洋に進出しやすい
  • 逃げ場が(海しか)ない

海上交通路を重要視する海洋国家を、地政学では「シーパワー国家」と呼びます。イギリスやアメリカ、日本などですね。
対義語は、陸軍重視の「ランドパワー国家」。ロシアやドイツ、中国などです。

イギリスとフランスの間にあるドーバー海峡は、幅がたった34kmしかないにも関わらず、その速い潮流のおかげで敵国に本土上陸を許したことはありません。 唯一の例外は11世紀のヴァイキング

【注意】本ブログ読者は『ヴィンランド・サガ』を読むことが勝手に義務付けられています。

ヨーロッパ諸国が争っている間に、イギリスは内政を充実させ、世界に先駆けて資本主義社会を確立しました。 きっかけはもちろん18世紀の産業革命euphoniumize-45th.hatenablog.com

もうひとつ忘れてはならないのが、植民地政策。 シーパワー国家として圧倒的な強さの海軍を作り上げたことで、世界各地に植民地をつくり、19世紀には実質的に世界を支配するまでになりました。

オフショア・バランシングとは?

地政学では一般に、「ある1つの国が半島の付け根を支配することは、半島全体を支配することに繋がる」と考えます。

イギリス地政学の祖ハルフォード・マッキンダーは、「ヨーロッパは半島である」とみなしました。 business.nikkeibp.co.jp

ではイギリスにとっての超重要ポイント、「ヨーロッパ半島」の付け根はどこか。

バルト3国(北からエストニアラトビアリトアニア)です。 これにベラルーシウクライナをあわせた5カ国が付け根。 言っちゃあなんですが、この5カ国のうち1国が半島を支配することなんてないんじゃないの?と私は思ってしまいました(失礼)。

f:id:euphoniumize-45th:20180206054136p:plain 本書掲載の図。点線の「緩衝地帯」が付け根。

実はその感想は正しかったようで、イギリスの仮想敵国は5カ国ではなく、その東隣のロシア。 ロシア(またはドイツ)が付け根を押さえないよう上記5カ国を独立させることが、イギリスの本土防衛のための外交戦略だったわけです。 そりゃウクライナが揉めることもわかるわ。

この地域の体制は、第一次世界大戦後のヴェルサイユ条約にて確立されました。 ドイツを封じ込めるための条約としか知りませんでしたが、イギリスの視点で見るとこんな意味があったとは知りませんでした。

このような沖合いから大陸諸国の勢力均衡をはかる外交戦略を「オフショア・バランシング」と呼びます。 イギリスまじでイヤラシイわー。。

www.nikkei.com 日本も対ロ戦略でバルト3国と連携。

イギリスの対ロ外交戦略

本書によれば、イギリスの外交戦略のほとんどが不凍港を求めるロシアの南下に備えるためのものといいます。 ロシアは広大な領土をもちますが、北極海は凍って港として使えないため、地政学的にはロシアは陸軍重視のランドパワー国家と見なします。 イギリスにとっては、ロシアが南下して不凍港を手に入れると、シーパワー国家としての優位性が崩れかねないわけです。

こうしてロシア南下に備える意図でイギリスが抑えた地域が、上記の「ヨーロッパ半島の付け根」と同様、白海黒海、インド、シンガポールなどです。 東アジアでは、シベリア満州方面からの南下に備えるために日本と同盟を結びます(1902年)。

f:id:euphoniumize-45th:20180206054603p:plain 本書掲載の図。イギリス中心の図法で見ると戦略がわかりやすい。

日露戦争では、日本は当時最強と言われたロシアのバルチック艦隊を撃破。 イギリスにとっては、日本が極東の守りを固め、かつロシアのシーパワー国家化を防いだウハウハイベントだったわけです。 こう見るとなんか悔しい。。。

ちなみに日露戦争で海軍参謀として活躍した秋山真之ですが、アメリカ留学時代に地政学の祖アルフレッド・マハンに直接師事したそうです。 習得した地政学的な考え方が、日本の防衛戦略に影響を与えていることは、間違いないところです。

坂の上の雲 全8巻セット (新装版) (文春文庫)

坂の上の雲 全8巻セット (新装版) (文春文庫)

そして現代では、イギリスは中国に急接近中。 こうした背景を踏まえてニュースを見ると、一味違った読み方ができるかもしれませんね。

まとめ

今回はイギリスでしたが、もともと調べてもいませんでしたが、知らない事が多かった。 歴史を眺めるうえで、地政学はかなり重要な視点であることがわかりました。 この面白さ、少しは伝わったでしょうか?

最後に、本書で紹介された地政学のポイントや定石、または個人的に琴線に触れたフレーズのまとめ。

  • 国家の行動原理は生き残りである
  • 隣国同士は対立する
  • 敵の敵は味方
  • 利害が一致すれば仇敵とでも組む
  • 他国同士の紛争は大歓迎
  • チョークポイントは紛争多発地域
  • 半島の付け根を支配することは半島全体を支配することと同義

次回はアメリカか東アジアのどこかをやるかもしれないし、やらないかもしれない。未定。

参考

イギリスの地理 - Wikipedia

個人的には、イギリスに対してあんまり好きも嫌いもないです。音楽は好き。

matome.naver.jp 重要参考文献ヲ発見セリ。

euphoniumize-45th.hatenablog.com

マンガでわかる地政学 (池田書店のマンガでわかるシリーズ)

マンガでわかる地政学 (池田書店のマンガでわかるシリーズ)