書評『ビジネスモデル2.0図鑑』
ビジネスモデル2.0図鑑 チャーリー / 近藤哲朗
ビジネスモデル2.0図鑑 #全文公開チャレンジ|チャーリー|note
目次
まずは従来のビジネスモデル1.0から
まぁWikipedia読んだだけですけど。
根来龍之
「どのような事業活動をしているか、あるいは構想するかを表現する事業の構造のモデル」と定義している[1]。
戦略:顧客に対して、仕組み (資源と活動)を基盤に、魅力づけして提供するかについて表現する
オペレーション:戦略モデルを実現するための業務プロセスの構造を表現する
収益:事業活動の利益を確保するのか。収益方法とコスト構造を表現する
ビジネスモデルの吟味・検討には、戦略・オペレーション・収益の3つが必要。 戦略の方向が「ビジネスモデルと顧客との接点を吟味するため」最も重要だそうです。ふむ。
経済活動において、「四つの課題に対するビジネスの設計思想」と定義している[2]。
誰に、どんな価値を提供するか
その価値をどのように提供するか
提供するにあたって必要な経営資源をいかなる誘因のもとに集めるか
提供した価値に対してどのような収益モデルで対価を得るか
まぁ基本ですね。
逆説の構造
本書によれば、「強い」ビジネスモデルには共通点があります。
本書で紹介している100のビジネスモデルには共通の特徴がある。
・ 「逆説の構造」がある
・ 「八方よし」になっている
・ 「儲けの仕組み」が成立している
の3つだ。
このうち著者が最も重視しているのが、「逆説の構造」。
著者の造語とのことですが、マーケットや前提条件である「起点」に対して、「定説」を把握する。そして、「逆説」と「起点」を組み合わせることでビジネスとしての価値を生む。これが「逆説の構造」の基本。
この「逆説」が「定説」から離れるほど、非常識なビジネスモデルになり、そのための仕組みも複雑なものになります。しかし、もしそれを組み上げることができれば、大きな価値となる。
私が思うに、この「逆説」の考え方が、ビジネスモデル分析において最も重要なものです。
普通こうするという「定説」がターゲットとなる市場にすでにあり、そこに対して「逆説」を打ち込むことで、価値を生む。
当たり前といえば当たり前かもしれませんが、これを明確に分析の起点に持ってきているあたりが秀逸かと思います。
そして、「逆説」は未来の「定説」になるというも面白いところです。
イノベーションとは?
さらに、この考え方から「イノベーション」についても定義することができます。
僕は、逆説の「逆」が最も強い状態こそ、イノベーションだと考えている。イノベーションは、日本では「技術革新」などと訳されることが多いが、本質的な意味はもっと広く、「革新を創造する」ことを指す。
逆説とイノベーションは、大いに関係がある。
著者は、究極の逆説がイノベーションである、としています。
これは分かりやすい定義ですが、真理かもしれません。
ビジネスモデル2.0とは?
それを踏まえると、「Social」「Creative」「Business」の3つを満たすのが、良いビジネスモデル(つまり、2.0!)といえるといいます。
紹介されるビジネスモデルはどれもイノベーティブなものですが、その最も大きな特徴が「Social」を要素に入れているところ。 「Creative」「Business」に言及していても「Socail」も合わせるという考え方は(私が読んだ本の中には)なかったように思います。 いや、あるにはあると思いますが、「社会に変革をもたらす技術革新」とか言われても正直「???」だったので。
これが次の世代で生き抜く企業の特徴になるように思えます。
そして、こういった特徴を持つビジネスモデルを、モノ、カネ、情報、ヒトに4分類して紹介するというのが、本書のコンセプトになります。
基本はこのくらいにして、以降、気になったビジネスモデルを紹介。 図解は転載しないので、本書を読んでください。note版もあるからいいよね。
008 / rice-code
その田んぼアートをスマホアプリで読み取ると、地元で生産されたお米を買える。そんな仕組みの中核を担ったのが、博報堂が開発した「rice-code(ライスコード)」というアプリ。
これのどこが気になったかというと、ユーザーからお金を取る仕組みが2つ用意されていること。 つまり、ユーザーは田んぼアートを見るために「展望料」を支払い、さらにお米を購入する、という二段構え。 さすが博報堂、これは狡猾なビジネスモデルです。(言い方)
010 / セイコーマート
北海道を中心に展開するコンビニエンスストア、セイコーマート。 店舗で調理する弁当や惣菜など、PB商品が多く、道民には欠かすことのできない企業です。
私事ですが、一時期北海道に住んでいたことがあり、セイコーマートにはお世話になりました。
そのビジネスモデルについては、本書を読んでもらえれば良いのですが、その強みが北海道地震で発揮されたことは記憶にあたらしいところです。
セイコーマートが北海道大地震対応で底力発揮 | 北海道リアルエコノミー | 地域経済ニュースサイト
北海道地震でセイコーマートの神対応に称賛の声、現場の従業員からは本部に対する批判の声も | 男子ハック
危機管理が徹底していたことも素晴らしいのですが、やはり店舗で調理というスタイルが活きた好例といえます。
060 / 芝麻信用
定説:「お金を借りるためのスコア」 逆説:「生活全般にメリットを生むスコア」
現状、個人の信用情報の価値が上がっています。そこで芝麻信用では、信用スコアをお金を借りるためだけでなく、生活全般の利便を図るための指標として使います。
信用スコアは、「個人特性」「支払い能力」「返済履歴」「人脈」「素行」の5つのカテゴリーから算出する。
以下記事の紹介によれば、信用スコアはAIで算出するため不正はできないとのこと。 中国の社会信用システム芝麻信用にみる「人工お天道様」の限界と未来 | 希望は天上にあり
でもなにより一番の驚いたのは、「ジーマシンヨウ」と読むと初めて知ったこと。
これまでは中国クラスタが注目していただけだから皆さん読めたんでしょうけど、これからはフリガナふろうぜ。。。 (Google日本語入力では変換できなかった…)
066/ 獺祭
定説:専門の職人による伝統的な寒造り 逆説:従業員がIT管理で四季醸造
専門技術が必要な日本酒製造を、ITによる管理で素人でも美味しく実現してしまったのが「獺祭」(だっさい)。
冬以外の季節でも作れるようになるのは、日本酒好きとしては歓迎です。
しかし個人的に期待してしまうのは、IT管理による醸造が増えてくると、杜氏による昔ながらの醸造の価値(味)が上がっていくこと。 お値段も上がってしまうかもしれませんが、美味しい日本酒が飲めるなら、それはそれで歓迎です。
1ユーザーとしては、マーケットが盛り上がるだけで楽しめるのですよ。
089 / LifeStraw
LifeStrawは安全な飲み水の確保とCO2削減の両方に価値があるため、使う人とお金を使う人を分けることに成功し、このビジネスモデルが成り立つようになった。
カネのビジネスモデル。
商品としては、浄水機能をもつストロー。これはこれでスゴイんですが(私も災害時用に備蓄してます)、やはりビジネスモデルが秀逸。
浄水がほしい人(例えばアフリカ)には商品を無償で配布する。 CO2削減に貢献したい企業は、商品の費用を支払う。
上記の引用どおり、使う人とお金を出す人を分けることに成功しています。図解を見ても、そんなこと出来るのか?とにわかには信じられません。
もちろんメーカーはその分、利益が出るわけで、まさに「八方」にメリットがありますね。
これが個人的に本書で一番好きなビジネスモデルです。
本書の全文無料公開について
本書は、noteで内容の全文を無料公開しており、話題になっています。 実際、私はぜんぶ無料版で読みました。
無料版では本文中にも、読者に対して「また無料版で消耗してるの?」とチクリとするアオリと有料版へのリンクが、ちょいちょい入っています。すみません、表現はもっと柔らかいです。すみません、全部無料版で読みました。
実は私は、無料版ページをPDF化して、Kindle端末(オフライン)で読みました。 いくつかの図解は、ページをまたいでしまい残念なことになりましたが、そのときだけWebに戻れば、特に問題はありませんでした。
さて、この発売前に無料で全文公開したビジネスモデルについて。 この狙いとしては、以下のようなものがあると、私は考えます。
- ビジネスモデルを図解する楽しさを広める
- マーケットを拡大するため
- 本書でも、「図解してみよう」の章があります
そして、無料版があるのにもかかわらず、有料版も用意する狙い(購入動機の予測(の予測))としては、
- ちゃんとビジネスモデルを勉強したい人は、有料版を買う。
- Webでは読みづらい人は、書籍の形で買う。
- なにより内容が面白いことに絶対の自信がある
といったあたりが考えられます。
上にも書きましたが、やはり一番の狙いは、ビジネスモデルを分析する楽しさを広めて、実際に図解する人口を増やしたい、というところでしょう。
ちなみに、著者の主宰するビジネスモデル研究所のメンバーが、『サピエンス全史』を図解されていて、大変わかりやすいのでオススメです。ちくしょう。
まとめ
やはり「図解」の分かりやすさが強力すぎますね。
図解のキモは、情報の取捨選択。多数のステークホルダーや要素から、重要なものだけを抜き出して、図示する。
いくつか自分でも書いてみて分かったのですが、本書は、図に載せる情報の選択が絶妙なのです。
これからは企業だけでなく、自治体や個人でもビジネスモデルを考えて運営していく人が増えそうです。 そんなときに、ささっとこんな図を書けたりするとカッコいいですね。