お金の歴史を振り返る / 書評『サピエンス全史』(4/8)
※このエントリーは、書評『サピエンス全史』シリーズの4回目です。 前回はこちら 。
今回は貨幣とお金の歴史について、『サピエンス全史』をベースに考えてみます。
(ネタバレありです。未読の方はご注意を。)

- 作者: ユヴァル・ノア・ハラリ
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2016/09/16
- メディア: Kindle版
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(↑本書とは何の関係もありませんが、BGM代わりにどうぞ)
貨幣が生まれて価値が生まれた
各地で発生した社会のほとんどが、独自に貨幣をもつようになりました。なぜかというと、貨幣がないと不便だから。 自分で例を出そうと思ったのですが、本書の例で十分。
物々交換の限界を理解するために、想像してほしい。 あなたが、この丘陵地帯で随一の、身の絞まった甘いリンゴの生る果樹園を持っていたとしよう。あなたは一生懸命働くので、靴がすっかり擦り減ってしまった。 そこでロバを荷車につなぎ、川沿いの、市の立つ町へ向かう。 市場の南端の靴職人にとびきり頑丈な革長靴を作ってもらって五年履けたという話を隣人から聞いていた。 その職人の店を見つけ、リンゴと交換で、必要な靴を作ってもらおうとした。
だが、靴職人はためらった。リンゴをいくつ請求すればいいだろう? 彼の元には毎日何十人も客が訪れる。そのうち何人かはリンゴを袋に入れて持ってくる。 小麦やヤギ、布を持ってくる人もいる。質は様々だ。 - 『サピエンス全史』
本書ではこの例がもう少し続きますが、要は、靴職人がいろいろな人に靴を同じ価格で売ろうとすると、物々交換ではとんでもなく難しいわけです。
客が勝手に持ってきた様々な品物の希少性と品質とタイミングを見極め、その価値に見合う靴を渡す。 質屋じゃあるまいし、普通は無理ゲーです。 しかも、これと同じ交渉(騒動)がすべての職人・農家・商家等の店先で行われるわけです。 収集がつかない。
そこで、貨幣の出番。
食物、住居や衣服。仕事、娯楽。 これらの価値を他人に提供することを考えたとき、人間によって得意とする分野や手段が異なるし、価値観も違う。 特に異国間、異人種間ではなおさらのこと。 統一的にその価値を図るための尺度として、貨幣が必要になった、というわけですね。 様々な分野の専門家が生まれたことも影響しあっていたようです。
貨幣は多くの場所で何度も生み出された。その発達には、技術の飛躍的発展は必要ない。 それは純粋に精神的な革命だったのだ。 それには、人々が共有する想像の中にだけ存在する新しい共同主観的現実があればよかった。 - 『サピエンス全史』
それにしても不思議なのが、複数の地域で同じように貨幣が登場する、ということ。
人間は種として何を目指しているのか?と疑ってしまいますが、実際は(意図的には)何も目指していないのでしょう。
でも、結果的にどこかに向かっているようにしか思えません。
単なる現象(繁殖のための施策)に勝手に意味を見出そうとするのは人間の悪い癖ですね。
ヨーロッパと中国それぞれで金銀に価値が置かれたことも興味深いところ。
信頼こそ、あらゆる種類の貨幣を生み出す際の原材料にほかならない。
(中略)
これまで考案されたもののうちで、貨幣は最も普遍的で、最も効率的な相互信頼の制度なのだ。 - 『サピエンス全史』
確かに効率の観点でいえば、お金ってかなり上位に入る概念ですね。
https://twitter.com/0Q7/status/877181391867269120
余談ですが、最近「価値とは何ぞや」ということをぼんやり考えているのですが、これがまぁさっぱり分からない。
か‐ち【価値】 1 その事物がどのくらい役に立つかの度合い。値打ち。
2 経済学で、商品が持つ交換価値の本質とされるもの。
3 哲学で、あらゆる個人・社会を通じて常に承認されるべき絶対性をもった性質。真・善・美など。
- デジタル大辞泉
今回は2が該当しそうですが、価値の説明文に価値が入ってる時点で説明できてないことは明らか。
今のところ私が一番しっくり来ている価値の説明は、こちら。
命を守り、永らえ、繋ぎ、続けることが生物の(種としての)目的。 これを満たすようなモノやコトに価値がつく。
むむむ、むりやり書いてみたけど、それでも自分でもよくわからん。
プライベートや仕事上の目の前のことなら、なんとか分かるし、どうにか解決している(と思っている)のですが、いざこうして言語化しようとすると、どうも上のようなポエム的になってしまい、イマイチ腑に落ちていない。
「マーケット感覚」はかなり近い概念だと思いますが、これは長期的に考えていかないと分からないかも。

マーケット感覚を身につけよう---「これから何が売れるのか?」わかる人になる5つの方法
- 作者: ちきりん
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
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貨幣は世界最大の信仰 虚構
つまり、貨幣は物質的現実ではなく、心理的概念なのだ。 貨幣は物質を心に転換することで機能する。 だが、なぜうまくいくのか? - 『サピエンス全史』
貨幣は、関係者の大多数による信頼と、その信頼に対する時の権力者による保証があってこそ、機能します。 「こども銀行券」とは誰も商品を交換しないが日本銀行券とはそれができる、と皆が信じていることが必要で、さらに日本銀行券においては日本政府が公式に(というのも虚構だが)製造・頒布している事実によってそれを担保している。
私の理解では、「貨幣という観点でいえば」税金とはこの保証をしてくれている政府に対する礼金です。 その税金が公共事業なんかに使われる際も、政府が再分配を行うので若干わかりにくいですが、これは国民に「最低限度の生活」を保障するためのもので、貨幣の社会的価値の保証とは関係ない。
権力者による保証も絶対ではないことは歴史が証明しています。そのために金や銀やその他の何かによる担保も必要となります。
この理屈がわかれば、貨幣そのものには価値がないことも理解できます。

- 作者: 苫米地英人
- 出版社/メーカー: マキノ出版
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参考文献という、自分の説明の下手さをごまかす情報も投下しておきます。 以下のPodcastが、お金の価値について分かりやすく説明しています。
貨幣のもつ社会的価値についてとても分かりやすく語っています。
要点をまとめると、
- お金(貨幣)は単なる紙やコインなのに、世界中の人々が信仰している
- しかもほとんどの人は、信仰だと思っていない
- 1円玉を1枚つくるのにかかるコストは? 1円玉をつくるのに1円よりも高くかかるなら、その1円玉の価値は?
これだけの内容が本題ではなく、オープニングのフリートークなのが、まったく意味不明(褒め言葉)。
経済成長の時代
信用(という概念)があるからこそ、将来の収入を期待して、実業家は投資をすることができます。
近代以前の問題は、誰も信用を考えつかなかったとか、その使い方がわからなかったとかいうことではない。 あまり信用供与を行なおうとしなかった点にある。 なぜなら彼らには、将来が現在よりも良くなるとはとうてい信じられなかったからだ。 概して昔の人々は自分たちの時代よりも過去のほうが良かったと思い、将来は今よりも悪くなるか、せいぜい今と同程度だろうと考えていた。 経済用語に置き換えるなら、富の総量は減少するとは言わないまでも、限られていると信じていたのだ。 - 『サピエンス全史』
経済の規模は、実際に長いことほとんど変わっていなかったようです。
歴史の大半を通じて、経済の規模はほぼ同じままだった。 たしかに世界全体の生産量は増えたものの、大部分が人口の増加と新たな土地の開拓によるもので、一人当たりの生産量はほとんど変化しなかった。 - 『サピエンス全史』
昔はパイの総量を増やすために大航海時代が始まって、アメリカ大陸が発見され、オーストラリアが発見されました。
しかし、これらの遠征により地上のすべての領土がいずれかの国に属するようになると、今までの方法が使えなくなリます。
これ以上、地球上には領土がないからです。
すると人類のとるべきアプローチは大きく2つに絞られます。 すなわち、生産性を上げるか、宇宙に行くか(領土拡大)、のどちらか。
実際には両方のアプローチが採られることになりますが、宇宙開発のような大規模事業のためには、そのためのテクノロジーや資材を生み出す必要があります。順序としては、生産性向上による経済成長が先になるわけです。
このあたりは、最近友人とやっている戦略ゲーム『Civilization』のおかげで、かなりリアルにイメージできるようになりました。このゲームは一言でいえば、自国のテクノロジーと経済を成長させていき、他国に先んじて宇宙船を開発できたら勝利(の条件の1つ)、というゲーム。 歴史好きなら絶対おもしろいでしょう。 詳細は主宰者のブログを参照。
ところが近代に入ると状況は一変し、急激な経済成長が始まります。 これが花開くのが産業革命と資本主義というわけです。これは次回以降。
投資と信用
現代の金融について、私はまったくの素人です。新聞もあえて読まないし、金融・経済の知識は人並み以下です。しかし、それでも素人なりの疑問はあリます。
そのうち最も大きな疑問が、誰がどうやって人類(投資家)に「将来が現在よりも良くなる」と思わせたのか?ということ。 そう思わないと、投資なんてできるわけがないですよね。
お金を世の中に回せば回すほどお金の総量が増える。投資は、リスクを負うが、相応の見返りを期待できる。
この理屈は理解できますが、「本当に?」と思ったときに、我々は何を信じて貴重なお金を投資すればよいのでしょうか?
ひょっとしたら、金融や経済がわからない、という疑問の核心はここにあるのでは?
現代社会におけるその答えを、私はテクノロジーの進化に見ています。
金融や投資は経済成長を前提にしており、経済成長はテクノロジーの進化に裏打ちされています。そして更なる先端テクノロジーに「投資」し続けることで、いわば三つ巴に支えあうシステムを構築し、動かしているのが現代社会である、というのが私の「投資」に対する理解。 これが顕著に現れた例が、IT革命でした。
世界を変えるのは、リバタリアンとヒッピーによる協業で、これが90年代の情報産業を世界的に押し上げた本当の要因だった。 ヒッピーが作ったミニコミに端を発するようなワールドワイドウェブに、政府とは距離を置き世界へと向かう金融関係者が大量の資金を流し込むことによって、情報産業は瞬時に巨大化した。リバタリアンとヒッピー勢力の融合が、現代社会を変える。 - 『多動日記 (1)』高城剛
実際に投資してから言えというご指摘はご尤です。
時は金ナニ?
話をすこし戻して、お金について気になるツイートを紹介。
全くその通り。私も「お金」の正体をずっと調べてきたけど、一番近いものが「時間」だった。そして金融とは時間とリスクを操る商売の総称。 / お金とは時間である? (Medium)https://t.co/IqMoMFrff2 #NewsPicks
— Katsuaki Sato (佐藤航陽)🌎 (@ka2aki86) 2017年5月24日
つまり、お金を多く持つ人は、他人の時間を買えるわけです。労働力とも言えるかもしれません。
自分にとって大事な物事に自分の時間を使い、そうではないものには他人の時間を使う。他人の時間は、製品やサービスや雇用などの形で提供される。
例えば、お腹が空いたので何か食べたいとします。自分で料理するなら、農家の時間を使って育てられた食材や、職人あるいはが道具を買うことになります。出来合いの惣菜を買うなら、料理をする時間も買うことになるわけです。
ソフトウェア開発でも、同じような考え方をします。ソフトウェア開発が特殊なところは、原材料が存在しないこと。あるのは、要求仕様と工数(人月)だけです。工数とは、1人が1ヶ月に行う作業時間のこと。開発費用とは、作業者の単価と作業時間を指します。
なぜ物理的なモノをなにも提供しないのに売れるかといえば、サービスや機能を価値として提供するから。原価があるかどうかは関係ないわけですね。これも「時間=お金」の好例と思います。
人の労働力がどれだけ入っているかで価格は決まることが非常に多い。 - 左右座
こちらは空気の値段からお金というものの正体を説明する。からの引用。 労働についての考察が鋭いブログです。 そもそもは遺伝子について調べていて辿り着いたのですが、あの恋愛工学関係のブログでもあるらしく、それはそれで興味深い(笑)
そして資本主義の欠点は、お金が永遠に貯蓄できる点。これは淀みを生みやすい。自然界のエネルギーも生命の時間も貯蓄が難しいので、システム自体が強制的に新陳代謝を余儀なくされる。結果的にシステムの持続可能性が高い。
— Katsuaki Sato (佐藤航陽)🌎 (@ka2aki86) 2017年5月24日
動的平衡が安定を生むということでしょう。
最近の経済が、株価などの指標と実態の乖離が大きくなっていることを踏まえると、日経平均株価が2万円を超えたり、米国財務省の長期金利が上昇していたりというニュースも、「淀み」が大きくなっているように思えてなりません。
世界は、そろそろ次のお金について考える時期に来ているのかもしれません。
棒ナス時期になると銀行からセールスがかかるが、今回はついに「ビッグデータでAIが運用する投資信託」をお勧めされたでござる。
— ryokawa (@Ryokawameister) 2017年7月8日
行員「なんでこのポートフォリオになるのかさっぱり説明できないしIT業界の方にAIとか解説するのつらい」て言ってた。
今回はこのへんで。 次回は科学革命の予定。

- 作者: ユヴァル・ノア・ハラリ
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