書評『マンガでわかる地政学』(2) / 中国編
『マンガでわかる地政学』
茂木誠 監修
武楽清・サイドランチ マンガ
- 作者: 茂木誠,武楽清,サイドランチ
- 出版社/メーカー: 池田書店
- 発売日: 2016/12/26
- メディア: 単行本
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地政学とは、一言で言えば、「地形によって国と国の関係がどんなふうに変わるのか考える」学問です。 地政学の概要については前回を参照。 euphoniumize-45th.hatenablog.com
前回はシーパワー国家としてイギリスについて学んだので、今回はランドパワー国家の中国を見ていきましょう。
※私は三国志は大好きですが、現代中国に関してはまったくのシロウトです。
目次 (再掲)
- 3つの国から見た世界
- 海洋国家アメリカは孤立した島だった!?
- イギリスがオフショアから望む景色
- 分裂・分割を乗り越えて台頭するドイツ
- 日本の近隣4国から見た世界
- 陸と海に攻められる中国の地政学的宿命
- 強国に挟まれる朝鮮の受難と策略
- 封じ込められ続ける大国ロシア
- さまざまな国から見た世界
- 日本から見た世界
- 陸海の脅威に揺れる自然に守られた島国
地政学的に中国を見てみると
ランドパワー国家とは
ランドパワーとは、大陸国家で陸続きの国境があるため、必然的に陸軍が強化され、陸軍主体になった国。 (中略) ランドパワーは広大な国土そのものが周辺諸国に対する防波堤になる一方、余力のあるときは海への出口を求めて膨張する。
本書「第2章 日本の近隣4国から見た世界」より
今回の中国や、ロシア、ドイツなどがその代表国です。 ついでに、対になるシーパワーもおさらい。
シーパワーは島国、海洋国家で、海上貿易に依存し、海軍中心の国家。 (中略) シーパワーはチョークポイントやシーレーンを保つためランドパワーの進出を抑えようとする。
本書「第2章 日本の近隣4国から見た世界」より
前回のイギリスや、日本、アメリカなどがシーパワー国家です。
地政学的な中国の歴史
まずは中国にとってのリスクを見てみましょう。 中国における地政学は、明(みん;1368~1644)の前後で大きく事情が変わります。
明朝以前は、中国の脅威はなんといっても、北方つまりモンゴル系の騎馬民族。 万里の長城がその象徴ですね。加えて、歴代の中国王朝は北方民族に贈りものをするなど、敵対しないように努めていました。しかし、財政圧迫からの農民反乱、そして王朝滅亡。中国の歴史はこの繰り返しであった、というのが本書の歴史観。 ちょっと単純化しすぎな気もしますが、まぁ昔のことだしツッコミません。
明朝以後、もっとも変わったことは、シーパワーの脅威が加わったこと。
大航海時代が始まったヨーロッパ各国の船がやってきたのです。
彼らは長い船旅を強いられ、かつ大きな金の動く商売でもあるので、軍備もしっかりされていました。
中国にとっては、ただ貿易だけしていれば良い相手かもしれませんが、残念ながら相手は帝国主義の手先。
また、倭寇などの海賊も増え、東シナ海周辺の海路の安全が保証されなくなっていきます。
そして清朝になり、19世紀末には中国は欧米や日露の各国の植民地となりました。
第二次世界大戦と冷戦を経て、本土は中国共産党が統一。 本土の共産主義/ランドパワーと、台湾の資本主義/シーパワー、という対立構図が生まれます。
その後のソ連崩壊をうけ、中国にとっては北方のリスクがなくなりました。 そのスキに、成長し続けているのが現在の中国になります。
本書でまとめられている中国の歴史を、ざっと要約するとこんな感じですかね。 いろいろツッコミどころがあるのは承知の上。
中国の強み
本書で紹介される中国の地政学的な強みのうち、代表的なものは以下。
- 農業に適した大平原と大河をもつ、温帯の広い国土(世界第3位)
- 世界人口の5分の1を占める、約13億人の人口
- 9割が漢民族なので民族紛争のリスクは低い
- 鉄、石油、レアメタル、など豊富な天然資源
- 北方への天然の防壁となる砂漠をもつ、ウイグルやチベット
戦略
中国は、ソ連崩壊以降、それまでのランドパワー国家からシーパワー国家へと変わるべく、戦略を組み直しました。 そして、それは現在まで続いています。 その施策のうち、地政学的に重要として本書で触れている項目は以下。
- 一帯一路構想
- ウィグルとチベットの併合
「一帯」がモスクワ通るの、無理矢理すぎやしませんか。。。
一帯一路構想
一帯一路構想は、中国からヨーロッパまで、陸・海の両方に現代版シルクロード(とそれを中心とする経済圏)を作ろうという大構想。 ロシアは協力的のようですが、インドが抵抗しておりモメているご様子。 あとはAIIBの先行きがどうなるかも関わるところですかね。 また、中国がアフリカ各国に投資を拡大しているのはニュースなどでよく見かけますが、「一路」の文脈で読むと理解しやすいかと思います。
ウィグルとチベットの併合
民族や宗教の問題も絡む地域ですが、今回は地政学。 この2地域は、中国にとっては「ロシアとインドという隣接する2つの大国に対して防壁的な役割を果たすバッファーゾーン」となります。砂漠があれば、まあ天然の要害にはなりますね。
しかし、私は知らなかったのですが、ウィグルには油田がいくつもあるようです。 そんなところが「防壁」って大丈夫なの?と思ってしまいますが、どうなんでしょう。
本書掲載の図。チベットのお隣は崑崙山脈。封神演義の舞台でもあります。
周辺諸国との関係
これまでの説明は中国だけにフォーカスした話でした。 しかし、複雑な世界情勢のなかの中国を知るには、さらに朝鮮半島やロシアの事情も見なければなりません。 まあ、具体的な内容は本書にて。
上記リンクは、中国人が日本の土地を買いまくっている件について取材している記者へのインタビュー。 別に中国人が法を犯しているわけではなく、日本がザルなだけなのですが、なかなか危ういことになっているようです。
地政学的に見ると、日本は中国がシーパワー国家へ変わっていくための重要な足がかり。 もちろん仮想敵国はアメリカでしょう。ロシアもかな。 尖閣諸島や東シナ海も同じ構図ですが、東アジアのパワーバランスにおいて日本は重要な位置にいることが、地政学的にも確認できます。 日本にとって中国の「一路」は、西沙諸島やインド洋など日本へ石油を輸送するためのシーレーンの安全が保たれない恐れにも繋がるわけですね。
あるいは、ロシアにとってシベリアは極東の重要拠点。 ここを中国に抑えられるのはうまくなく、そこで中国に対抗できる唯一の国が日本であることも、本書では触れられています。
東アジアに限らずですが、ある2カ国間で見ると対立していても、その周辺の第3国、第4国の存在を仮定すると(実際にいるわけですが)、戦略が生み出されるわけですね。
永遠の敵も永遠の味方もない、ただ永遠の利益があるのみ
日本だけでなく各国の立場を地形から理解することで、ニュースや本もまた違った見方ができるわけですね。 このあたりが具体的に知ることができたのが、本書の収穫でした。
それだけに、日本については事実なのか誰の意見か分からない記述が散見され、今ひとつ客観性に欠けるように読めてしまったのが残念でした。
まとめ
前回投稿後に頂いたご意見に、「時間距離1を考慮に入れているのか?」というものがありました。
正距方位図法はいいとして、じゃあその距離を移動するのにかかる時間はどうなんだ、というご指摘。
これはなかなか難しくて、どの時代の時間距離を考えるか、で結果が変わるわけです。
なぜなら、時代とともに(移動のための)テクノロジーが発達するから。
船の例ひとつとって見ても、造船技術、気象や海流の予測、地図と現在地特定の精度向上、など。
言われてみれば、たしかに本書では扱われていなかった視点でした(ご意見ありがとうございます)。
地政学は楽しいことが分かったので今後も追っていく中で、触れていきたいところです。
最後に、本書で紹介された地政学のポイントや定石、または個人的に琴線に触れたフレーズのまとめ(前回記載分に加筆)。
とりあえず地政学は今回で一区切り。
参考
- 作者: 茂木誠,武楽清,サイドランチ
- 出版社/メーカー: 池田書店
- 発売日: 2016/12/26
- メディア: 単行本
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訂正。距離時間でなく時間距離でした。むむむ。↩