書評『マンガでわかる地政学』(1) / イギリス編
『マンガでわかる地政学』
茂木誠 監修
武楽清・サイドランチ マンガ

- 作者: 茂木誠,武楽清,サイドランチ
- 出版社/メーカー: 池田書店
- 発売日: 2016/12/26
- メディア: 単行本
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地政学とは?
歴史を眺めていると、国同士のつながりや対立が当然のように紹介されていて、「あれっ、この事件はなんでこうなったんだっけ??」というのが腑に落ちない(忘れている)ことがよくあります。 ありません?
たとえば、豊臣秀吉の朝鮮出兵。「日本を統一したから、もう新しい土地はないし、次は大陸へ出兵しよう」というシナリオは、(日本人にとっては)分かりやすいです。
世界史も理論としては同じなのですが、なにぶん各国の地理や歴史をくわしく知っているわけでもなく、なかなかイメージすることが難しい。 新しい土地について学ぶことは楽しいんですけどね、限度があります。
そこで地政学。
地政学は、地理的条件から国家の行動を説明します。
本書 はじめに より
言い換えると、「地形によって国と国の関係がどんなふうに変わるのか考える」学問です。 まぁ、これだけではよく分からないので、実例を見ていくほうがよいでしょう。
正距方位図法
その前に、重要な前置きを。
本書は地政学の本なので、地図が豊富に提示されることは当たり前といえば当たり前。 本書の優れたところは、その地図が正距方位図法を多用していること。
その名の通り、中心となる地点からの距離と角度を正確に表した図法です。 この図法を採用することで、自分のいる(または思考の中心となる)土地にとって世界がどう見えるのか、シミュレートすることができます。 ところで、Civilizationも正距方位図法を導入したらどうでしょう?
マンガ形式
そして本書はマンガ形式で解説もあるので、そこそこ分かりやすくなってます。 謎の家庭教師・坂本先生が、やさしく教えてくれます。何者?
坂本先生「地政学を知ると、国の行動基準やどうして争いが起こるのか?がわかるようになるの。それを知るための学問でもあるのよ」
プロローグより
このとおり、地政学の考え方は、国際的な政治・軍事面からのアプローチであることが特徴です。 まぁ、成り立ちも目的も、そのための学問ですからね。
大国の指導者が世界地図を見ながら考えていること追体験できる、エキサイティングな学問です。
本書 はじめに より
地政学、男子はけっこう好きなんじゃないでしょうか(偏見)
目次
- 3つの国から見た世界
- 海洋国家アメリカは孤立した島だった!?
- イギリスがオフショアから望む景色
- 分裂・分割を乗り越えて台頭するドイツ
- 日本の近隣4国から見た世界
- 陸と海に攻められる中国の地政学的宿命
- 強国に挟まれる朝鮮の受難と策略
- 封じ込められ続ける大国ロシア
- さまざまな国から見た世界
- 日本から見た世界
- 陸海の脅威に揺れる自然に守られた島国
本書は「マンガでわかる」の通り気軽に読めるのですが、読んでみると意外と学ぶことが多く、自分メモを兼ねて短期連載で紹介したいと思います。
イギリス
イギリスの動向を見れば、世界の「次」がわかるといわれています。例えば、ブレグジットを魁に、独立運動が盛んなっている地域が多発していたり。
小国ながら19世紀には世界を実質的に支配したその地政学と外交戦略は、日本にも通じるところが多々ありますので、今回はイギリスを見てみます。
地形的な特徴と国家戦略
島国であることの特徴は、ざっとこんなところでしょう。 日本人ならば、鎌倉時代の元寇を思い出せばイメージしやすいと思います。
- 陸続きの国がないため、本土防衛に多くの軍隊を割く必要がない
- 半島との間にある海峡が、大陸からの侵略に対して天然の防壁となる
- 海洋に進出しやすい
- 逃げ場が(海しか)ない
海上交通路を重要視する海洋国家を、地政学では「シーパワー国家」と呼びます。イギリスやアメリカ、日本などですね。
対義語は、陸軍重視の「ランドパワー国家」。ロシアやドイツ、中国などです。
イギリスとフランスの間にあるドーバー海峡は、幅がたった34kmしかないにも関わらず、その速い潮流のおかげで敵国に本土上陸を許したことはありません。 唯一の例外は11世紀のヴァイキング。

- 作者: 幸村誠
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ヨーロッパ諸国が争っている間に、イギリスは内政を充実させ、世界に先駆けて資本主義社会を確立しました。 きっかけはもちろん18世紀の産業革命。 euphoniumize-45th.hatenablog.com
もうひとつ忘れてはならないのが、植民地政策。 シーパワー国家として圧倒的な強さの海軍を作り上げたことで、世界各地に植民地をつくり、19世紀には実質的に世界を支配するまでになりました。
オフショア・バランシングとは?
地政学では一般に、「ある1つの国が半島の付け根を支配することは、半島全体を支配することに繋がる」と考えます。
イギリス地政学の祖ハルフォード・マッキンダーは、「ヨーロッパは半島である」とみなしました。 business.nikkeibp.co.jp
ではイギリスにとっての超重要ポイント、「ヨーロッパ半島」の付け根はどこか。
バルト3国(北からエストニア、ラトビア、リトアニア)です。 これにベラルーシ、ウクライナをあわせた5カ国が付け根。 言っちゃあなんですが、この5カ国のうち1国が半島を支配することなんてないんじゃないの?と私は思ってしまいました(失礼)。
本書掲載の図。点線の「緩衝地帯」が付け根。
実はその感想は正しかったようで、イギリスの仮想敵国は5カ国ではなく、その東隣のロシア。 ロシア(またはドイツ)が付け根を押さえないよう上記5カ国を独立させることが、イギリスの本土防衛のための外交戦略だったわけです。 そりゃウクライナが揉めることもわかるわ。
この地域の体制は、第一次世界大戦後のヴェルサイユ条約にて確立されました。 ドイツを封じ込めるための条約としか知りませんでしたが、イギリスの視点で見るとこんな意味があったとは知りませんでした。
このような沖合いから大陸諸国の勢力均衡をはかる外交戦略を「オフショア・バランシング」と呼びます。 イギリスまじでイヤラシイわー。。
www.nikkei.com 日本も対ロ戦略でバルト3国と連携。
イギリスの対ロ外交戦略
本書によれば、イギリスの外交戦略のほとんどが不凍港を求めるロシアの南下に備えるためのものといいます。 ロシアは広大な領土をもちますが、北極海は凍って港として使えないため、地政学的にはロシアは陸軍重視のランドパワー国家と見なします。 イギリスにとっては、ロシアが南下して不凍港を手に入れると、シーパワー国家としての優位性が崩れかねないわけです。
こうしてロシア南下に備える意図でイギリスが抑えた地域が、上記の「ヨーロッパ半島の付け根」と同様、白海、黒海、インド、シンガポールなどです。 東アジアでは、シベリア・満州方面からの南下に備えるために日本と同盟を結びます(1902年)。
本書掲載の図。イギリス中心の図法で見ると戦略がわかりやすい。
日露戦争では、日本は当時最強と言われたロシアのバルチック艦隊を撃破。 イギリスにとっては、日本が極東の守りを固め、かつロシアのシーパワー国家化を防いだウハウハイベントだったわけです。 こう見るとなんか悔しい。。。
ちなみに日露戦争で海軍参謀として活躍した秋山真之ですが、アメリカ留学時代に地政学の祖アルフレッド・マハンに直接師事したそうです。 習得した地政学的な考え方が、日本の防衛戦略に影響を与えていることは、間違いないところです。

- 作者: 司馬遼太郎
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そして現代では、イギリスは中国に急接近中。 こうした背景を踏まえてニュースを見ると、一味違った読み方ができるかもしれませんね。
まとめ
今回はイギリスでしたが、もともと調べてもいませんでしたが、知らない事が多かった。 歴史を眺めるうえで、地政学はかなり重要な視点であることがわかりました。 この面白さ、少しは伝わったでしょうか?
最後に、本書で紹介された地政学のポイントや定石、または個人的に琴線に触れたフレーズのまとめ。
- 国家の行動原理は生き残りである
- 隣国同士は対立する
- 敵の敵は味方
- 利害が一致すれば仇敵とでも組む
- 他国同士の紛争は大歓迎
- チョークポイントは紛争多発地域
- 半島の付け根を支配することは半島全体を支配することと同義
次回はアメリカか東アジアのどこかをやるかもしれないし、やらないかもしれない。未定。
参考
個人的には、イギリスに対してあんまり好きも嫌いもないです。音楽は好き。
matome.naver.jp 重要参考文献ヲ発見セリ。
euphoniumize-45th.hatenablog.com

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