マンガで伝記を読もう / 書評・文春デジタル漫画館
子供の頃、公文式に通っていました。 狭い教室と、奥にさらに狭い休憩室があり、そこの本棚には伝記モノのマンガが大量に並んでいました。 教室に行ってその日の課題を終えたら、すぐさま休憩室に移動し、伝記マンガを読み漁るのが楽しみな時間でした。 だからどうというわけでもありませんが、そこで今の私の歴史好きの素養が培われたようにも思います。
さて、文春デジタル漫画館というシリーズがあります。 良質な伝記マンガを出版し続けています。
最近、Kindle Unlimitedでそれを発見したので、そのうち3冊紹介します。
漫画家は、安彦良和。 説明不要の大御所ですね。ちょっと期待。
『アレキサンドロス』

- 作者: 安彦良和
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2018/11/16
- メディア: Kindle版
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ペルシア帝国を陥落させた後、アレキサンドロスは兵士たちに問いかけます。
このまま東進しインド侵攻を決行するか、このまま故郷へ凱旋するか。
この時点で十分な戦果を上げているので、兵士たちの間には「もう十分」という気持ちが広まっていました。
しかしアレキサンドロスは満足していません。史上最大の領土をもち、富と名声を手に入れる。ただそのために兵士たちを説得します。
そのための演説が印象的でした。 高台から軍勢に向かっての演説ではなく、兵士たちの中に混じり、同じ目線の高さで語る。 我々の思い描く王のあるべき姿とは程遠い、一人の人間の感情をさらけ出したものでした。
もちろん内容は王のそれなのですが、親しい友人に問いかけるような、この演説に私はそんな印象をもちました。
事実がどうだったかはもちろんわかりませんが、本作ではそのように描かれます。
兵士たちは、彼を見て、その言葉を聞き、最終的にインド侵攻に同意します。 しかし、兵士たちは、王の演説に鼓舞奮起されたわけでもなく、報酬に目がくらんだわけでもありません。 アレキサンドロスを放っておけないという、いわば友情あるいは親心のような「同意」でした。
ちなみに、彼らはインドで大きな戦果をあげることになります。
この王と民(兵士)の微妙な距離感を描くことができる漫画家は、なかなかいないと思います。
最近のわかりやすい例でいえば、『センゴク』の播州兵かな。 いや、すこし違うかな(アレはアレで良かったんですが)。
アレキサンドロスのいかにもな苦悩っぷりもなかなか良いです。強欲と良心の矛盾。若いからかなと思ったら、今の私とほぼ同じ歳でした。ほほう。
本シリーズは、漫画かつページ数が少ないので、主人公の生涯を追うのではなくハイライトだけなのが惜しまれるところです。 ぜひ、1本じっくり!
『ジャンヌ』

- 作者: 安彦良和
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2018/11/16
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しかし、なんと本作、ジャンヌ・ダルクが登場しません。
物語は、ジャンヌの死から10年後。 ジャンヌと似た境遇で、ジャンヌに憧れを抱く女性が主人公です。 この主人公もジャンヌと同じく、親に男子として育てられました。だから、名前はエミール(女性名ならエミリー)。
物語は、エミールが国のために役に立ちたいと貴族の間を駆け巡るのですが、その旅がジャンヌの人生をなそるぞような境遇となります。彼女が出会う人々は、10年前のジャンヌの同志や敵対していた人物たち。
ここでようやくジャンヌの出番。といっても、回想シーンもほぼなく、ジャンヌは亡霊のようにたまに顔を出す程度。 だいぶ奇妙な形式の伝記ですね。
しかし、これも一応意味があったようです。それが垣間見えるのが、ラストシーン。
エミールはジャンヌと同じように火刑に処されそうになります。その前夜、神父と告解をおこないます。
この神父は、10年前のジャンヌの火刑のときも告解を行った人物でした。そのときの神父の言葉。
神は信仰の深さ浅さで人を選んだりはいたしません
神の御心を推し測ることはできません >ただ願うのです
神を信じ国を信じたジャンヌの思いに、一点だけ通じるシーンです。まぁ、それほど感動とかはしないんですが。
というか、それ以外はほぼエミールの妄想としか…
ともかく、この一点に物語を集約したことで、構成として面白い話になっています。
『イエス』

- 作者: 安彦良和
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2018/11/16
- メディア: Kindle版
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もちろん、ナザレのイエスのことです。 といっても、宗教的な話はほとんどありません。あくまで歴史です。 (私はキリスト教徒ではありません)
イエスに何が起きたのか。 イエスのまわりの人々は何をしたのか。 これをマンガで描き出します。
特徴的なのが、本作の語り手。 物語は、イエスの弟子の一人・ヨシュアの視点で描かれます。 誰それ?という感じですが、イエスと一緒に磔刑に処された人です。向かって右側。 彼は「最後の晩餐」ではイエスの左隣に座るほど、イエスの近くにいたにもかかわらず、歴史学的な分析では現在も謎の人物。
さて、イエス。 もちろん主人公なんですが、語り手・ヨシュア以上に完全に謎の人物です。 言っていることも、やっていることも意味不明。 「あれでお弟子さんたち、よくついていったな…」というレベルです。
正直、共感できるところはあんまりない。 語り手ヨシュアのほうに共感できますし、おそらくそれが著者の狙いだと思います。 謎の人物であることは本作を読む前から変わらないのですが、その時勢においてはある一定数の人々に求められていたことも事実。 著者はおそらくこれを描きたかったのではないでしょうか。
ジャンヌやアレキサンドロスは、やりたいことが分かりやすかった。 こう言っちゃなんですが、ジャンヌは正義のため、アレキサンドロスは欲望のため。 ではイエスがなにをやりかったか。正直わかりません。
そこがまさに本作で私が知りたかったところでもあります。
本作は、主にイエスの布教活動拡大から磔刑までを描いたものです。 すでに目覚めた後を描いているので、それはそれで大変興味深く読めるのですが、期待とは異なるところでした。 ページ数に制約があることは前述したとおりですが、それ以上に、内容的に書けないのかもしれません。
『パッション』を、公開当時から気になっていましたが、観てみたくなりました。
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伝記は迫力
伝記は、「よくわからないけどえらいおうさま」ではなく、一人の人間を描いたものです。 やはり史実ベースの物語は、迫力が違います。
もちろん扱われる人物はみんな、歴史に残る業績を築き上げた人物なので、当然といえば当然です。 ストーリーやマンガ描写の迫力ではなく、キャラクターとして、一人の人間としての迫力が、です。
どのような人物で、どんな文化的背景を持ち、何を考えていたか。 何をきっかけに行動を起こしたか。 そのときの周囲の反応はどうだったか。
ここでいう迫力とは、こうした空気感だったり、細かな描写をリアルに描き出すことによる臨場感です。 マンガならば、何気ない小さな1コマでも伝わる。 歴史(というか伝記)とマンガは相性がよいと改めて思います。
もちろん、漫画家の力は大きいです。 大人物であっても真正面から受け止められるのは、さすが巨匠。 ページ数の都合で、端折っているところも多いのですが、それでも核心はしっかり描いています。
「文春デジタル漫画館」シリーズは、他の人物も扱っています。 『ヤマトタケル』もあるので読みたいのですが、Unlimited対象外なのと、巻数が多い予感がしているので、躊躇しているところです。 まぁ、いつもの私の傾向からすると、1ヶ月もすれば購入していることでしょう。1
イエスが弟子を連れ街を歩いていると、ひとりの男が鎖に繋がれ、民衆から石を投げられていました。
— だいはちくん (@dai_cha_man) 2019年2月6日
イエスが近くの人に「なぜ石を投げるのか」と問うと、「あの男はマナー講師だからだ」と答えました。
イエスは「そりゃしょうがねえわ」と言うと、いくつか石を投げてから帰って酒飲んで寝ました。
たまには伝記もいいものですよ。

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