木牛流馬は動かない

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書評『辺境の老騎士 バルド・ローエン』

とにかくシブいです。

あらすじ

「なろう系」の新感覚グルメ・エピック・ファンタジーを漫画化!!
旅の共は馬と剣と、美味い飯。そして姫への想いだけ。
金も名誉も捨てて、老騎士バルドは死にゆくための旅に出た。
ひとりぼっちで美味しいご飯に舌鼓を打ち、ひとりぼっちで見慣れぬ景色に感嘆する。
死に場所を探す旅路はひっそりと始まった。
しかし、彼は知らない。それが新たな冒険の幕開けとなることを。
辺境の大領主コエンデラ家が引き起こす争いにバルドはいつの間にか巻き込まれていく―――。

主人公はおじいちゃん

冒険マンガの主人公といえば、若い少年が定番。
そこで老騎士を持ってくるところに、まずシビレます。

戦いに生きて名を馳せ、後進も育ち、国のためには引退することが最も役に立つ。
年齢を重ねて全体を見渡せるからできる業。

老兵は死なず、ただ去るのみ。

しかし、本作はここから始まります。 去った後の老兵の冒険譚です。

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この好々爺に癒やされる

加えて、なぜかグルメマンガでもあります。

グルメ描写は歳を重ねているキャラクターのほうが似合うのかもしれません。
『酒場放浪記』なんかもそうですが、なんというか、「沁み方」が違います。

本作は、往年の国民的騎士という設定からのバトル描写も、前述のグルメ描写も、好みなので楽しく読める作品です。

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第3話より

世界観

世界観は、中世ヨーロッパ風のよくある感じ1

術にはね 必ずタネがあるんだよ
何もないところに何かを生み出すのは神の業さ
けれど 小さな小さなタネがあれば それを大きくしたり大きく見せたりすることはできる

第4話の魔女の言葉。これ好き。

その世界に魔術が存在するとして、それでも人間にできることとできないことの境目をちゃんと認識している世界観は、とても好感を持ちます。

理(ことわり)がある、ということ。

これがちゃんとしていると、物語には描かれないところの奥行きが感じられる作品になります。
最近では、『図書館の大魔術師』も近い感じですね。

キャラクターに対する(勝手な)期待

シブいナイスシルバーを主人公に持ってきたのは素晴らしい着眼点です。

しかし、第2巻まで読んだ現時点では、いまひとつ物足りない。

主人公の長年の豊富な人生経験は垣間見えますが、あくまで戦闘に関する内容が多い。

惜しむらくは、キャラクターにタイトルから期待するほどの気迫や気骨、あるいはストーリーに「老獪さ」があまり感じられません。

例えて言うなら、黄忠
長沙にいたときや、劉備荊州四郡を侵略されたときの対応は、まさに辺境の老騎士。
気骨があり、義を重んじ、主君に忠実。
当初は、老兵ながら今後の活躍が期待される人物でしたが、その後は武人としてのそれにとどまるものでした。
期待のわりになんか残念、と感じた方も少なくないのでは2

本作も、これに近いものを感じました。

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いつ何時でも、のほほんとしているのは、それはそれで老獪かもしれない。

で、これがなぜかと考えてみたところ、1つ答えらしきものは見つかりました。

やはりいちばん大きいのが、主人公が1人で行動していることかな、と。
騎士引退後の気ままな旅の物語なのでしかたないといえばその通りなのですが、どうしても純粋な戦闘になりがちです。

近隣国家とのいざこざもストーリーに絡むので3、当初私は、部下を従える統率力や、敵を手玉に取る戦略・戦術の妙を期待していたのです。

考えてみると、その期待が筋違いであったということになります。むむむ。

引退騎士に何を求めるか

では引退後の騎士と聞いて、皆さんはどんな物語を期待するでしょうか?

古今東西のいろいろな作品を思い出しますが、私の世代では、つまるところ『るろうに剣心』に行き着くように思えます。 余生を謳歌しながら、過去に追われ、その過ちや柵を雪いでゆく。

本作を今ひとつ物足りないと私が感じた理由は、ここにあります。

長年騎士を勤めてきたのならば、過ちのひとつでも犯していてほしいところですが、本作には、現時点でそのような描写はなく、伏線もありません。
趙雲かよ…とも思いますが、それもちょっと違うんですよね。

過去の因縁の相手と再び対決、とかはあるんですが、それも武人に徹したエピソード。 いえ、好きは好きなんですよ、そういうのも。

これは言うまでもなく、これは私の勝手な期待です。

そんなストーリーだなんてどこにも書いてありません。 私がただ刺激的な内容を求めただけ、ということかもしれません。

ただ、読書は勝手に妄想を膨らませてナンボです。 感じたことは書いておこうと思ったまでです。

それはそれで本作の老騎士に「青二才」と諭されてしまうかもしれませんし、彼ならばそんなことも言わずにおいしく炙った川魚をただ勧めてくれるかもしれません。

老いとはなんぞや。

まとめ

妄想が捗っただけでも、十分楽しめました。

なんだかんだ書きましたが、そこそこ面白いです。


  1. この記事を書くためにググって知ったのですが、これ「なろう系」だったんですね。なんか納得。

  2. もっと年寄りをいたわれと言われば、ごもっとも。

  3. 外交の設定は正直ビミョーです。