書評『仮想通貨とフィンテック - 世界を変える技術のしくみ』
今話題のビットコインを購入してみたので、背景となる仮想通貨の仕組みを勉強しておくことにしました。 何冊か読みましたが、一番分かりやすかった『仮想通貨とフィンテック』を中心に、学んだことをメモしていきたいと思います。

- 作者: 苫米地英人
- 出版社/メーカー: サイゾー
- 発売日: 2017/05/25
- メディア: Kindle版
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仮想通貨とは?
本書では、仮想通貨を理解するうえで、そもそも通貨とは何か?から始まり、貨幣の歴史、現実の通貨と仮想通貨とデジタル通貨とポイントカードの違い、などその定義や成り立ちや現状を、かなり分かりやすく解説しています。
たとえば、
銀行にはあなたの現金はありません。「あなたの口座にいくら預金がある」という預金の情報があるだけです。そう考えると、銀行口座とは情報であり、情報も通貨となり得ると言えます。
本書「第一章 仮想通貨とは何か」
または
人によって、あるいは学説によって、多少の見解の相違はありますが、通貨には概ね以下のような機能があるとされています。
- 価値の基準(価値の尺度)
- 価値の交換(交換の手段、決済)
- 価値の保存
(中略)通貨にはこの3つの機能があり、逆に言えば、この3つの機能があれば通貨だと言えることになります。
本書「第一章 仮想通貨とは何か」
このあたりは当たり前の知識ですが、仮想通貨を知るための前提として重要な概念。
それでも、「仮想通貨」という言葉はいまだ定義がきちんとされていないようです。
実際、「仮想通貨」の定義自体が曖昧で、法定通貨(政府や中央銀行などが発行している通貨、法貨)以外のもので、通貨のような働きをしているものを「仮想通貨」と呼んでいる現状があるのです。
本書「第一章 仮想通貨とは何か」
まぁビットコイン(BTC)とかリップル(XRP)とかネム(XEM)とかその周辺と思っておく感じですかね。
「サトシナカモトとはお前のことだろう」
本書では、基礎となる暗号技術のしくみからブロックチェーンのデータ構造まで、仮想通貨の技術的な内容についても解説されています。 ここでは技術的な内容に深入りはしませんが、ざっと概要だけ。
「『ビットコイン』は『コイン』という名前が付いているが、実際は『コイン』ではなく『帳簿』である」ということです。
本書「第二章 仮想通貨は暗号通貨」
おそらくこれが最も分かりやすく仮想通貨(というかビットコイン)の本質を表している言葉かと思います。 ざっくりまとめると、すべての決済記録(をブロックにまとめたデータ)をチェーンのようにどんどん繋げて追加していく、というのが、その仕組み。紙の通帳に記録をどんどん書き込んでいくのと同じイメージです。
これを単調性と呼びますが、著者はその昔「ブロックチェーンなどの木構造のデータそのものに単調性をもたらす、汎用性のあるアルゴリズムとして世界最速」という技術で博士論文を取得したそうです。その特徴としては、それまでの技術の計算量がn^3
であったところ、「苫米地アルゴリズム」はn
つまり線形を実現したとのこと。うん、まぁ確かにスゴイ。
著者の肩書きは書ききれないほど多くその内容も物凄いのですが、エンジニアとして分かりやすいところでいうと、以下ですね。
- カーネギーメロン大学にて、全米で4人目、日本人としては初の計算言語学の博士号を取得
- 世界初の音声同時通訳システムの開発
- 日本語入力システム「ことえり」の開発
- 聴くだけで胸が大きくなる着メロ
本書で紹介されていますが、著者はジャストシステム基礎研究所にいた頃、So-netのSNS内のみで使える仮想通貨を開発したりしていたようです。 So-netとはなんと懐かしい…(と思ったら、まだありました。すみません、ポストペットのイメージしかなくて) http://www.so-net.ne.jp/
さて、ビットコインの設計思想の多くの部分が、過去に著者が研究していた内容と似ている部分が多いということで、著者は友人からサトシナカモト氏の正体だと疑われたというエピソードを紹介しています。
これは単なる想像ですが、その経歴と研究内容から察すると、あながち有り得ないこともない気がしてきます。 ここまで書いておいて本書では明確な否定がないことから、サトシナカモト本人ではないにしても、一枚噛んでいるのは間違いない、と(勝手に)思っています。
とはいえ、その設計思想のうち異なる(サトシ・ナカモト氏のオリジナルの)部分は、マイニング(発掘)と法貨通貨との交換という2点。
ビットコインではブロックチェーンの新しいブロックの内容を10分毎に正しく計算する必要があるのですが、マイニングというのは、その計算を最初に達成・成功した人に報酬として新しいビットコインが贈られること。ビットコインの世界では、これが「通貨発行」に相当します。いまは中国に多くの「マイナー」がいて、挙ってマイニングに日々精を出しているようです。
法定通貨との交換は、そのままの意味で、例えばビットコインと日本円を交換すること。 Tポイントカードは、割引はできても円との交換はできませんよね。 著者は、この法定通貨の交換を、設計者(サトシ・ナカモト氏)自身の金儲けのための機能と批判しています。
ここは「仮想通貨とはどうあるべきか」という設計思想の根幹に関わるところ(詳細は本書にて)。 どちらにしろ想像の域を出ませんが、ここの意見の相違は別人の可能性も高いです。 もっとも著者なら簡単に別人格をつくりあげて運用してしまいそうですが。
仮想通貨って儲かるの?
いまは仮想通貨バブルなので、円と仮想通貨の為替差益によって儲かっている人がいるのは事実です。 私の知人も、100万円儲かったと今年最大のドヤ顔していました(でも奢ってくれませんでした)。
私も試しに購入してみましたが、10万円分購入して4万円弱の利益でした。もともとこういう才能がないことは自覚していますが、その割に悪くないかと。ただし、よく言われているように、これがバブルであることは認識しているつもり。実際、為替相場を眺めても、数ヶ月は勢いがありましたが、今は若干陰りが見えてきましたので、今はほとんど売り抜けてます。
本書でも「どうなるかよくわからない」と警告していますし、別口からも似たような話を見かけました。
それより、先週国税庁がついに仮想通貨へ重税(一時所得とみなさず雑所得とする)を発表しました。最高実質税率55%ですが、稼いでも稼いでも稼げないどころか、たとえばビットコインで4000万円儲けて、株やFXで4000万円損をしたとしても、4000万円に対して55%課税され、2000万円以上を請求されることになります。 このようなリスクが近くなってきましたので、本メールマガジンの読者には、仮想通貨から距離を取るように、最近ずっとお話ししてきた次第です。各国の規制も、申し合わせたように本格化してきましたからね。
高城未来研究所「Future Report」Vol.326 (2017年9月15日発行)
とりあえず、円と仮想通貨の為替差益による投機は、ほどほどにしておいたほうがよさそうです。
仮想通貨の近未来
歴史的な流れを見ると、金貨の時代があって、その後、兌換紙幣の時代があって、さらにその後、不換紙幣の時代ににあると理解している人が多いのではないかと思います。金貨の時代、そして兌換紙幣の時代が金本位制、不換紙幣の時代が管理通貨制と理解しているのではないでしょうか。そして、管理通貨制が定着するのは、いわゆるニクソンショック以降だと思っている人も多いと思います。
本書「第一章 仮想通貨とは何か」
現代の政府は、通貨発行権をもつことが公的権力の1つの裏付けになっている、という歴史的経緯もあります。 EUはすこし複雑。
それでは仮想通貨はどうかというと、実は日本政府は2016年に仮想通貨を決済手段として公式に認めています。
この法改正について、本書では以下のような警鐘を鳴らしています。
ですが、この法律は「仮想通貨」という「通貨」の発行を政府以外の者に認めたと読むことができます。これは事実上、「円」以外の通貨を通貨として認めるということで、非常に大きな問題のはずです。
本書「第一章 仮想通貨とは何か」より
政府は日銀を通じてお金の流通量を制御することが役割の1つだったはずですが、仮想通貨を通貨と認めた場合、その制御が効かなくなることを意味します。 これはなかなか大変なことになってきました。どうするつもりでしょう、日本政府。海外の事情も気になりますね(調べてません)。
もう少し分かりやすいところでいえば、本書では近い未来に流通する仮想通貨関連技術について、2つの例に注目しています。それが、アップルペイとMUFJコイン。
アップルペイは、クレジットカードや電子マネーといった決済システムを提供するためのプラットフォームです。 これの何が注目かというと、アップルペイに乗っているクレジットカード等の決済システムはすべてアップルという1民間企業に喉元を押さえられていることになるからです。
ここからはさらに想像の世界を出ませんが(私は十分にあり得ると思っていますし、だからこそ本書でアップルペイを取り上げたのですが)、アップルがアップルペイ利用者向けに仮想通貨を発行したらどうなるでしょうか。例えば「アップルコイン」のような仮想通貨を発行し、それをアップルペイにおける唯一の決済通貨と定めたとしたら、どうなるでしょうか。日本、いや世界中の金融決済の大半が「アップルコイン」で行われるなどということにもなりかねません。
本書「第五章 仮想通貨が導く未来像」より
本書では続いて、三菱東京UFJ銀行が発行するデジタル通貨「MUFJコイン」についても触れています。 これが普及することは、政府が独占していたはずの通貨発行権を三菱東京UFJ銀行が手に入れることを意味しており、日本の貨幣の歴史が大きく変わる可能性が秘められています。
「円」は仮想通貨との競争に敗れ、単なる価値の裏付け的存在、金本位制における「金(Gold)」と同じ存在になってしまうかもしれません。「円」そのものの価値は揺らがないとしても、その管理者である日銀の存在価値は著しく低下することになるのではないでしょうか。
- 本書「第五章 仮想通貨が導く未来像」より
本書の出版の頃(2017年春)に著者がTVで語っていたのを観ていたので内容は知っていましたが、改めて読んでも胸熱な展開です。
所感
今回は要点だけ紹介しましたが、本書ではこれらのトピックを具体的に解説していますので、詳しく知りたい方は読んでみることをオススメします。
MUFJコインの話は歴史が変わることにもつながる、かなり衝撃的な内容でした。デジタル通貨を採用することで貨幣流通量の把握やマネーロンダリングの防止にも役立つことが期待されていますので、それだけでもやる価値はありそうです。
やはり今の仮想通貨バブルがいったん弾けて、その後に決済手段として民間に普及すること、あるいはそのための社会実装が待たれるところかと思います。 東京オリンピックが開催される3年後にどこまで実現するか分かりませんが、小売店やレストランがどんなデジタル決済手段が用意できるかは観光地としての日本の評価に直結する部分かと思います。この辺は中国が面白いみたいですね。
これはただの冗談ワロタ やはり語られるべきは「スマホ決済」や「電子マネー」というキーワードではなく、こういうことなんだろう pic.twitter.com/kfZ57p83R1
— 中国住み (@livein_china) 2017年9月20日
3年後までに追いつくのは無理としても、せめて10年後には広く普及していることを期待します。
参考文献
初心者向けで読みやすい。

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