書評『作曲少女 平凡な私が14日間で曲を作れるようになった話』
『作曲少女 平凡な私が14日間で曲を作れるようになった話』
仰木日向, まつだひかり
★★★★☆
- 作者: 仰木日向,まつだひかり
- 出版社/メーカー: ヤマハミュージックメディア
- 発売日: 2016/06/24
- メディア: 単行本
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まずはあらすじ
「『ダメだ……全然わかんない……』
1週間前に意気揚々とリサイクルショップで買ってきた1万円のキーボードと、その隣に積み上げられたたくさんの作曲の本。 私は、心の奥からこみ上げる”やってしまった感”を覚えながら、 必死に『いや、そんなことはない!』と思い込もうとしていたー―」
*~*~*~*~*~*~*
「何かやってみたい!」 そんな気軽な動機から作曲をしてみることにした女子高生、"いろは"。 しかし音楽知識はゼロ。何から始めていいのかわからずいきなり挫折しかけた彼女は、クラスメイトの――そして現役の女子高生作曲家でもある"珠美"に作曲を習うことになる。 「14日間で作曲はマスターできる」という珠美のもと、いろはは人生初の挑戦を始めるのだが……。
本書は、物語を読むうちに音楽の仕組みが理解できて曲作りの方法まで身につくライトノベル作曲理論です。曲を作るために、音楽的な知識は一切不要。必要なのは、正しい発想とちょっとしたコツ、そして何より第一歩を踏み出すこと。この本には、そのための考え方やヒントがたくさんつまっています。 さらに、現在作曲に挑戦している人にとっては、普段感じている曲作りの疑問が確信に変わるはずです。
というわけで、タイトル通り、作曲をする少女たちの物語です。 そして、作曲のやりかたを教えてくれます。 このやり方が、本当にすごいんです。
目次
- 1日目 珠ちゃんと私
- 2日目 それでも気になる理論の話
- 3日目 音楽と映画は結構似てるっていう話 -4日目 耳コピの話
- 5日目 越えられない壁の話
- 6日目 続く人と、続かない人の話・前編 続く人と、続かない人の話・後編
- 7日目 最初の壁を越える話
- 8日目 耳コピ最大の難関の話
- 9日目 キーの話
- 10日目 メロディラインと構成の話
- 11日目 “珠ちゃんビックリ大作戦”の話
- 12日目 テクスチャーの話
- 13日目 作曲合宿の話・前編
- 14日目 作曲合宿の話・後編
(以降、ネタバレありです。ご注意ください)
作曲って難しい?
私は趣味で作曲というか、いわゆるDTMの真似事などしておるのですが、本書のような内容は大変興味があるのです。
で、曲を作るためには、いろいろ勉強しなきゃいけない(と言われている)ことがあります。 音楽理論書は世に掃いて捨てるほど溢れていますし、私自身いろいろ読みました。芸大和声とかね(芸大でもないのに)。
しかしその全てが、どれだけ「初心者向け」「分かりやすい」と謳っていても「作曲なんて小難しくて面倒」という気持ちを拭い去ることはできませんでした。 とにかくヤヤコシイし、本によって言ってることが違うし、実際の曲を分析してみたらサッパリ違うし。
作曲に興味があり実際にやっていた私ですら、こうなのです。 況んや初心者に於いてをや。
そこで満を持して登場が、本書です。
2つの作曲メソッドを紹介し、これさえマスターすれば出来るようになるという、かなり実践的なものです。 その内容はここでは書きませんが、(他の作曲理論に比べれば)とても簡単です。というか、作曲やってれば誰でも当然のようにやることです。
このメソッドは、私も数年前に自分で思いついて試したことがあるのですが、しかしこの2つを作曲メソッドとして持ってきた本を、私は初めて読みました。ある意味、画期的。
確かに、本書の通りにやれば、本当の初心者でも、とりあえず作曲と呼べるスキルは身につくと思います。14日間はキツイかもしれないけど。
作曲をやってみたいという人が目の前に現れたら、私は真っ先に本書を薦めます。とにかく「やってみたい」人向け。
しかし本書では、その2つのメソッドよりも、はるかに重要視していることがあるのです。
なんのために曲を生み出す?
さて、本書では、作曲の方法は教えてくれません。 お前は一体、何を言っているのか?と思うでしょうが、そうなんです。
音楽を作る際には、作曲理論やテクニックよりもはるかに重要なことがあります。
それは、一言でいえば、メッセージ性といえるかもしれません。 もう少し具体的にいうと、自分が何が好きで、これまで何に感動したか、そして、何を作りたいと思ったか。
そこを曲を作る前に、自分自身に深く問いかけ、ハッキリと言語化する。
これこそが、本書の方法の最大の特長となります。
これを初心者キャラクターの「いろは」ちゃんが、読者が陥りやすい迷走にしっかりハマってくれ、珠ちゃんがビシッと軌道修正してくれる(何度も)。このため、要約を知っただけでは意味がないので、ネタバレしてしまいましたが、ここが(理論やテクニックではなく)本当の意味で難しいところでもあります。
「音楽理論を数学みたいに捉える理論書や入門書は多いけど、あれは誤解を生みやすいと思うんだ。あたしが音楽で伝えたいのは数式によって計算された何かじゃなくて、『こういうことがあったんだ』『聞いてくれよ、これって最高だよな!』『あたしの大好きなのはこれだ!』っていうことなんだよ。ある固定された式とかじゃない。」
本書「2日目 それでも気になる理論の話」より
なにかしらの創作活動に携わる人ならば、たとえ音楽に関係なくとも、その意欲の根幹を揺さぶられる言葉なのではないでしょうか。
本書では、作曲の話を始める前に、そして最後まで一貫して、しつこいくらい「自分の好きなもの」を問いかけ続けます。 なぜなら、それはものを作る上で本当に大切なことであり、「自分の創作活動」におけるすべての判断基準となる価値観そのものだから。
このことは、ある程度のレベル以上の音楽家であれば皆やっていることなのですが、これを明言した作曲理論の本(しかも初心者向け)は、まずこれまでにないと思います。
このスゴさ、伝わるかなー…
感動と努力とアイデアと
とはいえ、本書だけで作曲ができるようになるかというと、ハードルはいくつかあります。
仮に自分の好きなものをハッキリさせることができたとして、それを具体的な作品に落とし込んでいくためには、テクニックやノウハウが必要になります。 世間的にいう「作曲法」は、この部分のことですね。
本書の主人公と読者が最も違うところは、身近に手本を見せてくれるプロあるいは熟練者がいるかどうか。 これはデカイ。本当に。
珠ちゃんのツッコミは的確すぎて、本当に耳が痛い。
あと、本書でもたびたび取り上げられる「努力」の話も忘れてはいけない要素。
努力は夢中に勝てない
というフレーズが痛い。耳が痛いのか、心が痛いのか、もはや涙で濡れてわからないけど。
「音楽は理想を叫ぶから価値があるんだ」 本書「13日目 作曲合宿の話・前編」より
音楽をつくる苦しみとその先にある喜びと、創作とは何かという深淵を探るためのヒントを、しっかりと優しく初心者に教えてくれる良書です。
参考リンク
本書とヤマハがコラボして作曲コンテストが開催されました。
著者(原作)のTwitter。本書の内容に負けず劣らずの刺激的なツイートが多い。
- 作者: 仰木日向,まつだひかり
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