書評『さよなら、インタフェース 脱「画面」の思考法』
The best interface is no interface by Golden Krishna さよなら、インタフェース -脱「画面」の思考法 作者: ゴールデン・クリシュナ,武舎るみ,武舎広幸

- 作者: ゴールデン・クリシュナ,武舎るみ,武舎広幸
- 出版社/メーカー: ビー・エヌ・エヌ新社
- 発売日: 2015/09/17
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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まず前提。 本書でいう「インタフェース」とは、UIのことです。 いわゆるスマホアプリの画面デザイン設計など、エンドユーザーが触る部分の話です。
なるべく技術寄りにならないように書くつもりですが、それでも関係ない方は本ブログの別の記事へどうぞ。
euphoniumize-45th.hatenablog.com
感じたこと・考えたこと
本書のメッセージは、「画面」をなくせばいい、という単純なものではありません。 ソフトウェア開発(というかビジネス)において、問題解決のための思考の出発点を安易にUIに求めるな、という忠告です。 つまり、 「UIありきの思考にとらわれていませんか?」 「本当にそのUIで課題を解決できますか?」 ということを、いったん立ち止まって考えよう、というわけです。
たとえば。
スマホアプリの超イノベーティブなアイデアを思いついたとします。 ではこのアイデアをどうやって社会に広めていくかという開発初期段階で、まず多くの開発者・企業が着手してしまいがちなのは、スマホの画面を作ること。
これが悪いわけじゃないんです。 ただ、ここで注意したいのは、これらのアプローチは基本的に画面ありきだってことです。
画面に表示し、フリック入力し、タッチパネルで[OK]ボタンを押す。 いまや1日に何十回も(もしかしたら何百回も)やるこの手順に、ユーザーはともかく開発者まで疑問を持たずに従っています。
最近のソフトウェアは、画面部分は表示・グラフィクスのみを担い、機能的な処理は裏で行うのがセオリーです。 今ではスマホは画面表示だけで、処理は全てサーバーが行うようなアプリも多いですね。
本書で警鐘を鳴らしていることは、ソフトウェア開発的にいえば、まず「画面」から考えるのではなく、要求分析とアーキテクチャー設計を重視しろ、ということになるかと思います。
要求分析は、問題が何かを定義すること。 アーキテクチャー設計は、問題解決ができる仕組みの大枠を考えること。 これらが十分に検討された上でUIが必要となれば作ればいいし、アーキテクチャーがしっかりしているなら、そこから先は技術者は画面設計に注力できる、ということになります。
UIのスペシャリストだからこそできる重要な提言であると思います。 しかもそれをIT革命の終盤(モバイルへの移行期)である2015年時点で発表するタイミングの良さ。 画面設計を普段しないエンジニアも読んでみて損はないと思います。
どこで使える?
これまでの紹介でわかったかもしれませんが、本書はいわゆる技術書ではありません。 技術者向けの自己啓発書に近いかもしれません。
既存技術で画面のないソリューションとしては、音声認識、キーレスエントリー、自動ライフログアプリ(インストールは必要)、ってあたりですかね。
画面を使わない(使えない)という観点では、運転という制約がある車載機器(インフォテイメント)あたりでこういう動きが活発になると面白いと思います。
なんだかんだ言って完全自動運転(レベル4以上)はしばらく先ですしね。
とはいえ
画面イメージが開発の初期段階にあると、関係者が完成品イメージを共有しやすいので、これはこれでアリです。
モックだけでもプロトタイプがあると、どういうアイデアか長々と説明されるよりもわかりやすい。 「えらい人」にプレゼンするときは殊更、見た目にわかりやすいことが求められます。 スマホなどの普及したプラットフォームに乗っかるのも、プロモーションとして普通のこと。
ただし、勘違いしてはいけないのは、これはプロジェクトマネジメント的に価値があるのであって、 アプリの(アーキテクチャー)設計としては、順序が違います。
ここさえ押さえておけば、プロトタイプとしてUIを作ることは意味があると思います。
実際、簡単にGUIをつくるための開発ツールも充実してきていますし。
というわけで、いくつか気になるものを列挙しておきます。
technet.microsoft.comhttps://technet.microsoft.com/ja-jp/library/dn497701.aspx www.powermockup.com www.elektrobit.com
関連書籍
及川卓也氏のブログ。本書の前書きも担当。 takoratta.hatenablog.com
うめ『スティーブズ』第4巻 PARC(ゼロックス・パロアルト研究所)から始まったGUIの歴史を紐解くことができます。もちろんマウスを開発したアラン・ケイも登場。

- 作者: うめ(小沢高広・妹尾朝子),松永肇一
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2016/02/12
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