書評『大東京トイボックス』
ものづくり魂がアツすぎる!
『大東京トイボックス』うめ
- 作者: うめ
- 出版社/メーカー: 幻冬舎コミックス
- 発売日: 2013/09/24
- メディア: コミック
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ゲーム制作会社のお話であるが、とんでもなく熱い魂の傑作である。
主人公は弱小ゲーム開発会社の企画兼ディレクター。
ゲーム開発とは、ゲームとしての面白さの追求をしていくのは当然として、ソフトウェア開発の最前線でもある。華々しい企画の表舞台だけでなく、泥臭い開発現場のディレクターの苦悩とエンジニアの苦労をリアルに描いている。仕様変更を始めとして
(なんたって本作の決め台詞ですから)、リソース(時間と人と金)不足や政治的な規制など、ただ良い物を作れば良いというわけではない。
"物を壊すのは一瞬だが、作るのは地道な作業の繰り返し"
"十分な時間が与えられない中で仕事を完遂しなければならない"
本作はさらにゲーム(またはその表現)が青少年に及ぼす影響と犯罪者心理との関係といった、現代においてゲームを語るならば避けては通れないテーマに踏み込んでいる。よくぞここまでド真ん中を描いてくださった!という敬意を抱かざるを得ない。
しかし、本作を3回ほど読み返すと(私はマンガは繰り返し読む派である)、それと当時に、関係者をすべて納得させればそれでクリアなのか?という疑問が湧いてきた。
アイデアと技術
エンジニアの視点でいえば、己の技術を磨くことは最低限の必須だが、それよりも大切なのはその技術をどう使うか?である。
一般的にソフトウェア開発は、発注元や企画の「要求」をインプットとし、その「要求」を満たすソフトウェアをつくり納品する仕事である。それを実現するために、技術のみならずプロジェクトマネジメント、品質管理、資金調達、人材確保などやるべきことが山のようにある。そしてそれは(必ず!)永遠に増え続ける。
そんな中で、エンジニア(ディレクター・マネジャーを含む)が自分の作りたいものを作るには?
本作では、その
ものをつくるギリギリのところ
を垣間見ることができる。
しかし、これを本当の意味で楽しめるのは、ソフトウェア開発の修羅場を経験したことがあり、今でもソフトウェア開発に従事し、かつそのような自分に満足してる者のみではないだろうか。あまりにリアルすぎて、現状に不満を持っている人は、本作を自分の境遇に重ね合わせてしまい、楽しめないのではないかと思う。
ゲームというのは何時間も
場合によっては何十時間とかかります
他人の人生をそれだけ拘束しておいて
なにも残らないようなモノなど
いったい何のために作ると言うんです?
私の思う本作の価値は、言葉にすると陳腐かもしれないが、クリエイター魂である。
Appleしかり、島本和彦しかり、世に何を残すか、「開発」にどう向き合うか、に挑み続けなければならない。
本作はこれを見事に描いた傑作だと疑わない。