木牛流馬は動かない

テクノロジーや気付きによる日常生活のアップデートに焦点をあて、個人と世界が変わる瞬間に何が起きるのかを見極めるブログ。テーマは人類史、芸術文化、便利ツール、育児記録、書評など。

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解説のない美術展に行った話(『左脳と右脳でたのしむ日本の美』感想)

以前、解説のない美術館に行きたいと書いたことがあります

euphoniumize-45th.hatenablog.com

内容はタイトル通り、美術館で余計な情報を入れずに(解説を読まずに)絵だけ見たいと思ったことがきっかけで、そういう美術館ないかなぁ、と妄想してみた記事となります。 書くだけ書きましたが、とはいえ実現するには、なかなか運営が難しいのかな、と思っていました。

ところが、いつものようにTwitterに棲息していたところ、そんな美術展をサントリー美術館でやっているという情報が入ってきました。

きっかけとなったツイートはこれ。 eric on Twitter: "ぱっと見ふつうのビニール傘にみえるけど、偏光フィルムを使った傘なんだって。歩くたびに景色が変わっていくのが面白くて2回歩いてきた☂️… "

eric on Twitter: "サントリー美術館で開催している『左脳と右脳でたのしむ日本の美』 情報がまったくない直感コースと情報いっぱいの理論コースに分けて同じ展示を2度みる。ものの見方と見せ方について考える、頭が柔らかくなったような、逆にこんがらかったような感覚に。。面白い展示だった!… https://t.co/pV4Uij1I9O"

ほう、どこかで聞いたようなフレーズが。

情報がまったくない直感コースと情報いっぱいの理論コースに分けて同じ展示を2度みる。

これは行かずばなるまいと、仕事が外回りだったことをいいことに、その日の夕方、急遽六本木に向かいました。

美術展の公式情報はこちら。

サントリー芸術財団50周年 nendo × Suntory Museum of Art information or inspiration? 左脳と右脳でたのしむ日本の美 サントリー美術館

サントリー芸術財団50周年 nendo × Suntory Museum of Art information or inspiration? 左脳と右脳でたのしむ日本の美

美術展を歩いてみる

さっそくチケットを購入し、いざ入場です。 サントリー美術館は、建物の構造として、展示室へのエレベーターに乗ることが入場となります。

エレベータを待つ間、順路の説明を受けます。 要約すると、以下のような内容でした。

  • 同じ展示物を見るために2つの入り口がある。
  • 「Inspiration」には、一切の説明がなく、ただ展示物を見る順路。
  • 「Information」には、解説+αという、展示物の関連情報が付加された順路。
  • 2つの順路の切り替えは、再入場で行う。

私の書いた記事では、順路(人の動線)が交わるところがあり、そこが課題でした。 この展示会では、解消されています。

そのアイデアは、上記のとおり、再入場。 入口で渡される作品一覧の紙ペラに、当日の日付が刻印されています。

標準的な順路としては、「Inspiration」で一通り見て廻り、一度出口から出ます。 その後、再入場し、今度は「Information」側から再度同じ展示を見る、という流れになります。

なぜなら、人間の脳にとって、情報入力は半不可逆的なものだからです。 俗に言う(?)、「知らなかったあの頃には戻れない」というヤツです。

なぜ「半」かというと、脳には忘却機能があるからなのですが、これは別に機会にまわします。 少なくとも、今回の(比較的小規模の)美術展をどれだけゆっくり見ても1時間程度でしょうから、その間に情報を忘れることは現実的ではない、と言えます。

何がいいたいかというと、本展をコンセプトに沿って楽しむためには、「Inspiration→Information」の順路で見るのが最適だろうということ。 もちろん、何度でも再入場できますので、この順路に従う必要もないのですが、今回は従っておくのがよさそうです。

コンセプトと展示品

コンセプトと連呼しましたので、この美術展のコンセプトを見ておきましょう。

人は美しいものに出会ったとき、2種類の感動のしかたをすると仮定。作品の背景や製作過程、作者の意図や想いを知ることで生まれる感動、そしてもうひとつは、ただただ理由もなく、心が揺さぶられる感動です。本展は、佐藤オオキ氏率いるデザインオフィスnendoが提案する、左脳的なアプローチ、右脳的な感じ方の双方で、日本の美術をたのしんでみる展覧会です。つまり、1つの展覧会のようで、2度たのしめる展覧会なのです。さて、あなたは理論派?それとも直感派?

感動の分類(定義)として、「理論」によるものと「直感」によるものがある、という仮説に基づいているわけですね。

展示品は、日本の伝統工芸品を中心に、陶芸や掛け軸、香炉などがあり、また現代アート風な作品も含まれていました。いろいろな種類の展示品がありましたが、やはりコンセプトがしっかりしているので統一感は保たれていました。

Inspirationによる感動

「直感」側は、絵画ならイメージしやすいかもしれませんが、たとえば色彩が派手なものだと分かりやすいですね。しかし本展では、むしろ余計な装飾が削ぎ落とされた非常にシンプルな造形のものが多く並んでいました。

瑠璃色の花瓶が並んでいたり、真っ白な箱を組み合わせる玩具のようなものに触れたり、といった具合です。

じっと眺めながら、ああでもないこうでもないと考えを巡らせることになるのですが、分からないことが思ったよりもストレスにならないことに驚きました。

なんの情報もないので、有名な作家だから良い作品なんだろう、という余計な雑念を持たずに鑑賞できるわけです。

なんなら、完全な素人の作品を混ぜておいてもいいわけです(今回はありませんでしたが)。 良いと思えば良いし、ダメならダメ。

ふと、落合陽一氏が著作で書いていた言葉を思い出しました。

ピカソの絵がなぜ素晴らしいか、説明できますか?

ちょっと考えてみると、ものすごく難しい質問であると気づくと思います。

誰かエライ先生が良いと言ったから、良いのか? 「青の時代」を経た上での、革新的な試みを行ったから『ゲルニカ』は良いのか? 「青の時代」は、何が良くて何が足りなかったのか?

これに対する私の回答は、ここの本題ではないので割愛しますが、ある作品に触れて、自分の感想をまず持つことができれば、その作品にたいする周囲や歴史的な評判と切り離して認識することができます。こうしたきっかけになる展示でした。

ここは期待通りでしたので、じっくり楽しみました。 なかなか体験できない貴重な時間でした。

Informationによる感動

こちらは解説+αを加えた状態で鑑賞を楽しむスペースとなります。

私は、「これが一体なにか?」ということが気になり、その展示方法の旨さはには膝を打つことが数度ありました。 たとえば前述の白い箱ですが、実は螺鈿細工などが施された重箱であることが示され、模様の有り無しで何が変わるのか、機能美とはなにか、というところを考えさせるような展示となっていました。

しかし、例えばその作品は誰々が何々のために作った掛け軸です、という情報を知ることには、あまり感動は得られませんでした。

ここでは、どうやってこの展示を実現したか、というところにばかり気が行ってしまったのは事実です。 私個人の感想なので、万人が同じ感想はもたないと思います。

(後日、追記で写真をアップしようと思います。撮影OKでしたので。)

本当にお客がいるのか?

実は鑑賞しながらこっそりと、周りのお客さんの様子を気にしていました。 このようなヘンテコリンな展示会にわざわざ足を運ぶなんて、どのような人だろうと思ったのです。

多くのお客さんは、スタッフの指示通り、それぞれのスペースに合った楽しみ方をしていました。 しかし、感覚的には3~4割ほどのお客さんは、(私にとっては)残念な鑑賞方法をとっていました。

余計なお世話は承知の上で、その様子を書かせてもらいます。

本展は、前述のとおり、入口で作品一覧の紙が渡されます。 そして、情報をなるべく入れないで「Inspiration」を楽しむように案内をされます。

紙を渡されたら見たくなるのは当然のことなのですが、私はどうにか気持ちを抑えて紙を見ないように2つ折りにし、内ポケットに仕舞いました(もちろん「Inspiration」終了後は、読みました)。

しかし、私が見たある人は、その案内を聞いたそばから、その作品一覧をがっつり読み込んでいるではありませんか。 まったく意図が伝わっていないということです。 紙を渡されて見るな、というのも酷なのですが、これは残念です。

一方の「Information」スペースでも気になったことがありました。

こちらは解説+αを加えた状態で鑑賞を楽しむスペースとなります。 あくまで、鑑賞がメイン。 言葉にすると当然です。

しかし、いたんですよ。 解説だけ読んで、作品を見ずに、次の作品(の解説)に行く人が。

先に見た「Inspiration」の印象を留めたまま文字による周辺情報を入れる、という楽しみ方をしていた可能性もありますし、その人が何を考えていたかは知る由もありません。

美術館の楽しみ方なんて、人それぞれ。 人に迷惑がかからない限り、好きなように鑑賞すればいいと思います。

本来このようにケチをつけるのも嫌なのですが、もしかしてうっかりしちゃった可能性に期待して、書かせてもらいました。いや、どうもね、そう見えたんですよ…

まとめ

残念ながら、本美術展は、6月2日で終了しています。 前述のとおり、コンセプトに共感していますので、こんな美術展をもっとやってほしいところです。