木牛流馬が動かない

木牛流馬が動かないのは、魔法かもしれないし、ロックが掛かっているだけかもしれません。いつもの視点をすこしだけ変えて日常をアップデートしていく、そんなきっかけになるノウハウや考え方を紹介していきます。テーマは、ライフハック、育児効率化、人類史、読書メモ、アニメ、音楽など。中の人は、埼玉在住の30台子持ちSE。

書評『ない仕事の作り方』

「好きなことを仕事にする」「人と違うことをする」という、クリエイティブの究極形。

「ない仕事」の作り方

「ない仕事」の作り方

ない仕事の作り方
みうらじゅん

★★★

そもそも何かをプロデュースするという行為は、自分をなくしていくことです。自分のアイデアは、対象物のためだけにあると思うべきなのです。

本書「「私が」で考えない~自分なくしの旅」より

勝手に苦労している自由人

著者についてその名前を聞いたことはあっても、一体何をやっている人なのか詳しく知っている人はあんまりいないんじゃないでしょうか。 とにかく謎の多い著者ですが、実は調べれば調べるほど味が出てきます。 (以後、著者を「MJ」と表記します)

個人的には、MJのプロジェクトの1つである『勝手に観光協会』という共通の話題から大事な友人と出会えたこともあり、一応MJのこともポジティブな見方をしています。一応ね。謎なことには変わりありませんが。

まずは作品紹介から。

デビューして今年で35年、「仏像ブーム」を牽引してきた第一人者であり、「マイブーム」や「ゆるキャラ」の名付け親としても知られるみうらじゅん。とはいえ、「テレビや雑誌で、そのサングラス&長髪姿を見かけるけれど、何が本業なのかわからない」「どうやって食っているんだろう?」と不思議に思っている人も多いのでは?
本書では、それまで世の中に「なかった仕事」を、企画、営業、接待も全部自分でやる「一人電通」という手法で作ってきた「みうらじゅんの仕事術」を、アイデアの閃き方から印象に残るネーミングのコツ、世の中に広める方法まで、過去の作品を例にあげながら丁寧に解説していきます。
「好きなことを仕事にしたい」、「会社という組織の中にいながらも、新しい何かを作り出したい」と願っている人たちに贈る、これまでに「ない」ビジネス書(?)です。

Amazon作品紹介より

そんな「ない仕事」術をざっくりまとめると、「世の中にすでにあるけれどもまとまっていないものを集めて、ジャンルとして名前をつけて、広める」、ということ。

たとえば「ゆるキャラ」。

この「ゆるキャラ」という言葉(ジャンル名)の発案者がMJであることは結構知られていますし、今でこそ「ゆるキャラ」という言葉が広く認知され市民権を得ています。

しかし、元々はそんなジャンルはなく、地域ごとに活動していた着ぐるみがいただけ。 彼のやったことは、日本全国を周ってその事例を大量に集め、彼らを「ゆるキャラ」というジャンルとして括ったこと。 そして、その言葉を普及させたこと。

前回の『NIPPONの47人』もキュレーションとしては同じですが、言葉のプロでもある著者は、やはり命名センスが秀逸。 別にユルいからいいというわけではなく、言い得て妙な名前を付けるセンスがです。

ちなみに、「ゆるキャラとはこうあるべき」という定義は、MJ自身は決めていないそうです。 普及が始まると、勝手に各ゆるキャラの「中の人」や周辺が語り出すそうで、その多様性を受け入れる余地を残したことが上手いところかな、と思います。

いやよいやよも…

趣味は突き詰めなければ意味がない。

著者は、自分の好きなことを突き詰めることを、強く推奨しています。 そして、突き詰めるために必要としているのが、「自分洗脳」。 また怪しい名前の技ですが、これがなかなかおもしろいと思います。

 第一印象が悪いものは、「嫌だ」「違和感がある」と思い、普通の人はそこで拒絶します。しかしそれほどのものを、どうやったら好きになれるだろうかと、自分を「洗脳」していくほうが、好きなものを普通に好きだと言うよりも、よっぽど面白いことになるからです。

なんでそんな妙なことをしなければならないかというと、目指す姿があり、かつ今の自分では到達しないとわかっているから。 しかも、何か動作や作業をすればいいわけではなく、嗜好や性格まで含めた「状態」として、対象物を好きでいることを目指す。スーパーサイヤ人でいることが自然な状態を維持する、というわけです。

または鵜堂刃衛。

自分洗脳をやってみた

実は、私これよくわかります。 苦いものを噛み続けるみたいな感じと言いましょうか、だんだん良くなってくるんですよね。

なぜよく分かるかというと、私も自分で思いついて同じことをやったことがあるから。別に著者に関係なく。

私の場合は、ジャズでした。 マイルス・デイヴィスとかウィントン・マルサリスとかのガチなやつ。

きっかけは、世間で良いと言われているものの、何が良いのかさっぱり分からなかったから。 それでも「何かがスゴイ」ことは分かる。

そこで自分洗脳です。

もちろんすぐに分かるようにはならないので、すぐ飽きてきます。 そこからが勝負。 それでも聴きつづけているとだんだん「良く」なってきます。

1年ほど続けた結果、結局よくわからないのは変わりませんでしたが、少なくとも「ここに注目して聴けばいい」という聴き方のようなものは掴みました。

私は自分の知識を増やすためだけでしたが、著者がスゴイのは「誰かが良いと言ったもの」ではなく、「自分で探し出した名もないもの」を自分洗脳によって「良い」と思い込むこと。

もらっても嬉しくない土産物を集めた「いやげもの」なんかは好例です。 好きでもないものを、自分はこれを集める!と思い込み、ある種の使命感を勝手に抱く。

もしあなたが今、やりたいけど手が届かないと思っていることがあるなら、試してみても面白いかしれません。

変性意識

ところで、先日『変性意識入門』という本を読みました。

変性意識とは、集中力が発揮される、いわゆる「ゾーン状態」となっている精神状態のことですが、これを意図的に作り出す方法の解説本です。この精神状態下では、記憶力や思考力が通常より高まるそうです。

自分に対してやるだけなら勝手にやればいいのですが、相手に(強制的に)やると一種の洗脳に近い効果があります。

詳細が気になる方はこちらをどうぞ。 (我ながら怪しい本読みが多いなぁ)

で、これを読んでみて、MJのやっていることと同じだな、と気付いたわけです。

つまり、「不自然な格好」で「なにか変なもの」を集める著者は、存在だけで世間からすると一抹の不安を覚えます。 そこの不安な心に、圧倒的な物量で広めたいものを繰り出すことで、相手の心を書き換えていくのです。 普通は書き換えられる前に逃げますけどね。

広告にも同じ手法が多く使われています。 こうして書いてみて気付きましたが、これってすごくマスコミ的な手法ですね。

程度の差はあっても、消費者を不安にさせて、こんな新商品がありまぁす!ともっていくパターン。

私はこれまで(今も)、著者の趣味には共感しても、普及の方法なんかがイマイチ気に入らなかったのですが、おそらくこれが原因ですね。

本書では「一人電通」という手法も紹介されています。 詳細は省きますが、要は飲み会で仲良くなって仕事を回してもらう、というやり方。 実際のところ大事なのかもしれませんが、これもいかにも前時代的なやり方かと思います。

この2冊を読んで、ここの整理ができたのは、自分にとっては収穫でした。

価値を生むのは、集めること?名付けること?

MJの生み出す「ない仕事」は、基本的にキュレーションです。 本業というか肩書きは「イラストレーターなど」とのことですが、著者自身が書いているように「など」が多すぎて最早「など」だけでいいのでは、というレベル。

本書で触れられているのは、趣味の蒐集癖を仕事にまで昇華させた体験談。

MJは「変なこと」をし続けていますが、その一方で、自分が世間の常識からは外れていることは自覚している。 なぜMJがこれを実現できているのか不思議でしょうがないのですが、この絶妙なバランスでマーケティングがうまくいっているようです。 まぁもともとアタマはいいんでしょうけど。

本書では「ない仕事」について書かれていますが、その本質は、今まで誰も思いつかなかったこと、誰でも思いつくけど(そのままでは)仕事としては成り立たないから誰もやらなかったことを、やり続けること。

崖の写真をただ集めるだけの企画も、最終的にどうにかまとまり、松本清張に辿り着きました。

みうら 糸井さんが、ぼくの仕事に関して「みうらが拾わなくなったら、ただの風景に戻る」とおっしゃってるのを聞いて、なるほどと思いました。それは、ぼくの仕事をあらわすすべてだなと思います。

そういう意味では、「変なものを見つけて集める職業」を確立した著者だからこそ「MJが言うのなら、ひょっとしたら面白いものかも」と思ってもらえるような気もします。

それよりも、その「変なこと」をやり続ける根性がひねてくれているのかな。両方か。

本としては、だいぶ特殊な状況下の仕事術なので、拾えるところだけ拾うくらいのスタンスで読めばよいかと思います。

おわりに

正直、仕事術としてはとても良いことを言っているのですが、そのたびに挙げれれる例がどうにも気が散るものばかり。 「いやげもの」だの「アウトドア般若心経」だの「エロスクラップ」だの、それぞれは私も嫌いではないのですが、話題があっちこっち飛ぶので、仕事術の本として読むとだいぶ読みにくいです。まぁ読む前からの予想通りといえばそのとおり。

もし未読で「MJ初心者」なら、まずは著者の趣味に慣れることから始めたほうが、アタマに入りやすいかもしれません。

参考リンク


みうらじゅん著『「ない仕事」の作り方』仕事に悩み、迷った人へのメッセージ

育児を趣味と考えて取り組む、という面白い発想。

www.1101.com

目次 まえがき すべては「マイブーム」から始まる
第1章 ゼロから始まる仕事 〜 ゆるキャラ
第2章 「ない仕事」の仕事術
1 発見と「自分洗脳」
2 ネーミングの重要性
3 広めることと伝わること
第3章 仕事を作るセンスの育み方
1 少年時代の「素養」が形になるまで
2 たどり着いた仕事の流儀
第4章 子供の趣味と大人の仕事 〜 仏像
あとがき 本当の「ない仕事」 〜 エロスクラップ

「ない仕事」の作り方

「ない仕事」の作り方