木牛流馬は動かない

テクノロジーや気付きによる日常生活のアップデートに焦点をあて、個人と世界が変わる瞬間に何が起きるのかを見極めるブログ。テーマは人類史、芸術文化、便利ツール、育児記録、書評など。

木牛流馬は動かない

イベント評『NIPPONの47人 2017 これからの暮らしかた −Off-Grid Life−』

渋谷ヒカリエにて開催されたイベントに行ってきたので感想などを。 公開は本日までだったので、本記事が終了後の掲載になってしまったのは無念。

www.d-department.com

都道府県で面白いことをしている人たちをキュレーション

都道府県で1組ずつ、地域に根差しながらその住民や環境のためになるような工夫を凝らして暮らしている人々を紹介する展示です。トークイベントなども別日程でやっていたようですが、私が行ったのは展示だけ。

僕たちの未来は、どんな「暮らしかた」の集合体でできていくんだろう。47の点を繋いで、未来のカタチを想像する。
(中略)
これまでの常識にとらわれない暮らしかたを実践する47人をご紹介します。

選定基準
1. その土地にあるものを活用している。
2. しなやか、柔軟、イノベーティブである。
3. 活動が広まるほど地域経済が循環し、豊かになる。
4. 楽しそうに、ご機嫌にやっている。

(公式HPより)

展示内容は、彼らが作った商品や書籍、模型、特集された新聞記事などを、1m四方程度のテーブルに乗せたもの。説明書きは少しだけありますが、基本的にはその存在を紹介するに留めた展示でした。

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私が本イベントを知ったきっかけは、「埼玉」の野口勲氏(野口種苗研究所)氏。 まったく別口からその存在を知ったのですが、偶然本イベントに辿り着きました。 彼は、いま世に出回っている大半の種無し野菜(F1種)が人間にとって良くないものだと考え、種あり野菜(固定種)の専門店を長年続けている、種屋です。 科学的根拠はなく、必要になるかどうかもわからないけれども、そのときに備えて使命的に続けているそうです。 その内容の詳細は後日取り上げたいと思います。

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「埼玉」の展示は、野口氏の書籍とその研究所の種から育てたであろう野菜。

野菜だけでなく、シェアハウスやエコ住宅、街全体を水をテーマにブランディングしたりと内容は様々で、面白い展示でした。

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山梨。発酵食品について。『てまえみそのうた』が気になる(売ってました)。

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長野。廃材利用は胸熱ですね。

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岐阜。マッドサイエンティストが研究してそうな外見。

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鳥取。固そうなパンがおいしそう。

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島根。街のブランディング成功例。

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愛媛。温暖な気候の土地ならではの熱効率が考慮されたエコハウス。

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福岡。食から街を変える。

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佐賀。空き地にコンテナを起き、住民の集まる場にする試み。

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長崎。マグロの漁獲量激減でヤバイという警告。

隣に47都道府県の名産を取り扱う売店があるのも良いです。 私のお気に入りの有田焼「深川製磁」も扱っていました。

感想

それぞれがやっていることは面白そうだし、それらをまとめて紹介する企画にも、一定の意味がありそうです。

ただ、どうにも寄せ集めの雰囲気を感じざるを得ず、それはなぜかというと、それぞれの展示に連携がないからかな、と思います。 もともと個別にやっている活動をキュレーションした展示なので、連携していなくて当然なのですが、展示の企画として(実際連携してなくても、言葉だけでもよいので)もう少し全体を貫くテーマがあってもよかったのかな、と。

本記事末尾に引用しますが、スケーラビリティの課題も見られました。 エコ、シェアハウス、サステナブル(持続可能)な社会という意識高い系のネタが多かったので、やはり個別活動では本当の意味でサステナブルにはなりにくい。 広く普及させるためには、方法論に落とし込んだうえでノウハウや考え方の共有が必要になります。 本展示ではそこが足りないという指摘を含めて、本記事末尾の一連のツイートも一読ください。

ここで取り上げたのは、住まい、食べもの、エネルギー、働きかた、流通などに関わるこれまでの常識にとらわれない多岐多様な暮らしかたに関する実践をされている方々です。始めたばかりの方もいますし、実績の多い方もいます。また、個人でされている方も会社をつくっている方もいます。こういう活動は方向性も大事ですが、それを現実の社会に落とし込む継続性も大事です。 単純な夢や物語を語るのではなく、人口減少、成熟した資本主義、民主主義の社会をしなやかに楽しみながら生きていく「暮らしかた」のビジョンをぜひ、見ていただけたらと思います。 そして、47の点と点をつないで、未来はどんなカタチになるか、どっちに向かうのか、想像して楽しんでいただけたら幸いです。

(公式HPより)

本展示を見て「そんな面白い人がいるなら」と直接会いに行くようなガッツを持った人が、どのくらいいるか分かりませんが、そこまでいかなくても、自分ができることがないか考えるきっかけになるだけでも価値のあるイベントだったと思います。

東京人はターゲット外?

と、イベントについてはこのくらいにして、ここからはコレきっかけで考えたことをつらつらと。

今回の展示は、会場が渋谷ヒカリエと都会のど真ん中。 そんな場所でやるこのイベントは、どんな人をターゲットとして考えて、どんな意味をもたせた展示なのか?と疑問に思ったのです。

地方出身者にとっては、生まれ故郷の魅力を再発見できて楽しいのではないかと思います。 あるいは、地方出身者だからこそ見える東京の魅力や奇異もきっとあるんだと思うし、地方出身者だからこそ他の地方の魅力が分かることもありそう。

一方、東京人にとっては、どうでしょう。 私自身、元・東京都民→現・埼玉都民なので(1年だけ北海道に住みましたが)日本全体から見れば東京人のようなもの(のはず)ですが、その立場から見て、実は今回のイベントの意味があまりよく分からなかったのです。

私は、首都圏でない、いわゆる「地方」での暮らしがどんなものか知りません。 祖父母は九州の超ド田舎でしょっちゅう帰省として滞在していましたが、やはり住んでいないので肌感覚として分からない。
私と似たような境遇の人も、今回のイベントの来場者として一定数は想定されると思うのですが、そんな人々に対して、この展示は、単に面白いことをしている人を紹介するだけなのか、地方ってこんなに素晴らしいよと言いたいのか、発信力のある人の目に留めてもらってビジネスチャンスを拡げるためか。
もちろん主旨は一読しましたし、未来の暮らし方の青写真としては、素晴らしい例がたくさん紹介されていました。
ただ、誰に向けたものか、が今ひとつピンとこなかった。

ちなみに、本イベントに「東京」の展示はありませんでした。 いや、もちろんあるにはありましたが、そこにはキュレーターの1人である後藤正文氏(ASIAN KUNG-FU GENERATION)のフリーペーパーが置いてあるだけ。 内容はこの展示だけでなく活動全体のビジョンなんかが書かれていて、それはそれで面白げなものでした(あんまりちゃんと読んでない。すみません。。。)。

ただ、その展示の意味は何かということが、私は一番気になりました。 フリーペーパーよろしくキュレーションや情報発信が東京の役割と考えているのか、それとも、東京は「これからの日本」に役割がないのか。

穿った見方だと自覚はありますが、思ってしまったのであえて書き残しておきます。

自分の住む街で

ところで、最近『山田孝之東京都北区赤羽』という番組を(数年前の作品ですが)観ました。
内容は、彼が俳優としてスランプに陥ったとき、たまたま目にしたマンガ『東京都北区赤羽』(清野とおる著)を読み、そこに描かれた赤羽に暮らす人々と交わることで自分を取り戻そうとする、というドキュメンタリーです。 意味がわからないよ。
その中で、山田は引越しの挨拶で会った赤羽の住民の一人に叱られます。
「なんでもともと自分のいたところでは出来なかったことが、赤羽に来れば出来ると思ったんだ。赤羽をナメてんじゃないのか?」と(意訳)。
山田としては清野のマンガに感銘を受けてという理由があるのですが、たしかに住民にとってはナメられていると思う人がいても不思議ではありません。
ちなみに、山田は何かするたび、この人に叱られ通しで、観ていて超楽しいです。

私自身、どこか地方都市に移住することは人生の可能性の1つとして持っていますが(「捨てていない」程度のレベルですが)、それでも縁もゆかりもない土地にいきなり住むことの無責任さには、どうにも納得できないところがあります。仕事や学校の都合とかそういうことじゃなくね。 今住んでいる町で、今回の展示で見たような「工夫」を自分自身とその周辺でも考えることが必要と気づきました。

  • なぜ自分はそこに住みたいと思ったのか?
  • その土地でしかできないことは何か?
  • それは他の町ではできないことなのか?

私は埼玉在住ですが、子どもが生まれてからというもの地域に根を張るスピードが加速していて、しかもその居心地がよいので、当分住むつもりです。 だからこそ、まずは近所で面白いことをやっている人々を探してみるところから始めてみようかな、なんてことを考えた週末でした。

参考

本イベントについて、楽しんだ感想と鋭い指摘のツイート群。こういうのをさっと書けるようになりたい。

ameblo.jp 面白い取り組みの一例。プロの演奏家が子供連れ向けイベントを自主的に開催とのことで、見に行きました。お三方のうち1人と知り合いです。

町おこしについて描いた傑作アニメ。