木牛流馬が動かない

知っていれば世の中が違ってみえる小さな発見を探しています。といいつつ単に個人メモだったりもします。中の人は、読書・育児・ライフハックが好物の外資系ITメガネ男子です。

帝国主義と科学革命を振り返る / 書評『サピエンス全史』(5/8)

今回は帝国主義と科学革命と移動について。

※このエントリーは、書評『サピエンス全史』シリーズの5回目です。 前回はこちら。 お金の歴史を振り返る (4/8)

移動の時代

7万年前〜6万5千年前頃、サピエンスはアフリカ大陸を出て、ヨーロッパやアジアに移住を始めました。 以降、サピエンスの歴史は移動の歴史と言いかえても過言ではないかもしれません。

西暦三〇〇年頃には、民族移動がありました。 ゲルマン民族は、モンゴルからのフン族の侵入から逃れるために、ヨーロッパを大移動しました。 これって、数ヶ月前に(現在も)北アフリカからヨーロッパに難民が大移動している現象に近いのかな、と思ってます。

Karte völkerwanderung.jpg
*Wikipediaより*

西暦一〇〇〇年頃には、レイフ・エイリクソンがアメリカ大陸を発見しました。

以前から彼については調べてましたが、『ヴィンランド・サガ』で人となりがわかるほどにリアルに動き出したときは感動しましたね。 ただ、個人的に『サピエンス全史』で残念なのは、レイフ・エイリクソンに触れていないことです。

最近では、こんなニュースもあります。こちらはアメリカ原住民のことですね。

さて、初っ端から脱線したところで、話を戻します。

本書『サピエンス全史』では、帝国主義と科学革命が表裏一体のものとして語られており、それは探検と征服の文脈で読み解くことができる、として紙幅が割かれています。 つまり、科学の発展のためには探検が必要になりますが、そのためには先立つものが必要。また貴族や商人は、リターンの大きい遠征に投資して稼ぎたい、という両者の利害が一致したのが、大航海時代に始まる「移動の時代」というわけです。 軍事・産業・科学の連携により、発展のスピードが急加速します。

ちなみに、なぜ科学に移動が必要かといえば、この時代ようやく地球を正確に測量することが必要なレベルまで科学が発展したから。 なるべく遠く離れた地上の2地点と、基準の星との三角形により、より高精度な測量を行うためです。 また、正確な地図をもつことが、貴族の権力の誇示も兼ねていた事情もあります。

しかし、なぜペルシアや中国ではなく、ヨーロッパが覇権を獲ったのか?

鄭和の遠征によって、ヨーロッパがテクノロジーの面でとくに優位に立っていたわけではないことがはっきりする。ヨーロッパ人が特別なのは、探検して征服したいという、無類の飽くなき野心があったからだ。 - 『サピエンス全史』

さて、このヨーロッパ人の探検と開拓の野心はどこから来るのか?と考えたとき、私は地政学的なアプローチが分かりやすいように思います。

ヨーロッパ人の立場で周りを見てみると、南はローマとアフリカ、東は東欧の山岳地帯とロシア(当時ロシアがどんな状況だったかは調べてません)があり、この方向に拡大は現実的でない。 そもそも彼らは南からヨーロッパにやってきた人々なのだから、戻るのもおかしな話です(そこまでおかしくもないけど)。 そして、北と西は海。 つまり、陸地に彼らの領土拡大の余地はなかったのです。

この状況で、彼らが領土拡大を考えたとき、レイフ・エイリクソンに端を発して脈々と受け継がれてきた「西」への航海を実行するのが、現実的かつ希望に溢れた政策だったのではないか、と思えるのです。

著者は西洋軍事史も専門のようなので、このあたりは本書でも詳細に解説されています。

また一方で、アメリカ大陸のインディアンを追いやり、南米のインカ帝国を滅ぼし、オーストラリアの先住民を虐殺し、オセアニア地域を植民地化したことも、この時代の人類の活動として紹介されています。 ここは開拓という大義名分を振りかざした科学と帝国主義の結びつきの、もうひとつの事実ということを忘れてはなりません。 単純に奴隷はよくない!とかそういうことではなく(良くはありませんが、当時はそういう社会でした)、次の時代に人類が進むためには、あらゆる面から振り返ることが必要ということです。

天地明察

天地明察


(↑日本でも科学と測量のために大移動した人もいましたね)

神の時代から科学の時代へ

もし有史以後の人類史を2つに分けるなら、その境界は科学革命です。
科学革命によって、サピエンスは「進歩」を手に入れたからです。 科学革命は、現代社会が始まるきっかけと言っても過言ではないでしょう。

西暦一五〇〇ごろ、歴史はそれまでで最も重大な選択を行い、人類の運命だけではなく、おそらく地上のあらゆる生命の運命をも変えることになった。 私たちはそれを科学革命と呼ぶ。 それはヨーロッパ西部の、アフロ・ユーラシア大陸西端の、それまで歴史上重要な役割を果たしたことのなかった大きな半島で始まった。 - 『サピエンス全史』第15章

それまで「真実」は神から与えられるものでした。 昔の人々、つまり神に近かった人々のほうがこの世のことをよく知っている、ということ。

ところが、科学革命でこれが変わります。 きっかけは、アメリカ大陸の発見。
ここでも「移動」が関係してきます。

アメリカ大陸の発見は科学革命の基礎となる出来事だった。そのおかげでヨーロッパ人は、過去の伝統よりも現在の観察結果を重視することを学んだだけでなく、アメリカを征服したいという欲望によって猛烈な速さで新しい知識を求めざるをえなくなったからだ。彼らがその広大な新大陸を支配したいと心から思うなら、その地理、気候、植物相、動物相、言語、文化、歴史について、新しいデータを大量に集めなければならなかった。聖書や古い地理学の書物、古代からの言い伝えはほとんど役に立たなかったからだ。 - 『サピエンス全史』第15章

科学革命を一言でいえば「無知の発見」です。
これって、(第二次)認知革命であり、宗教革命でもあり、産業革命でもある、重要という言葉では言い表せないほどの大変革かと思います。 科学革命とんでもねえ!

また、ここで著者はひとつの指摘をしています。 それは、科学革命から現代まで続く科学の考え方はヨーロッパ的なものである、ということ。

キリスト教的な社会の構造や制度、文化などが、このような科学の考え方にマッチしたことが、近代ヨーロッパが飛躍的な発展を遂げたことの一因、と著者は言います。 単に科学を他国に持ち込んでも、その国民の考え方に合わないなら発展は限定的になる、ということです。 この辺の詳細は本書にて。

これが真実とするならば、もし現代科学以外の「理屈」が今後発展するとして、それが例えばアジア地域の文化とマッチするものならば、そのような考え方がアジアを中心に、世界を席巻するような時代も来るのかもしれません。

(↑科学で説明できるものならしてみやがれ)ドヤァ

世界の虚構が統一されていく

まずは世界の時刻の統一から。

一八三〇年、リヴァプールマンチェスターの間で、史上初めて営利の鉄道サービスが営業を開始した。その一〇年後には、初めて列車の時刻表が公表された。鉄道は従来の馬車よりも格段に速かったので、各地の時刻の呆れるほどの不統一は、大変な頭痛の種となった。そこでイギリスの鉄道会社各社は、一八四七年に一堂に会して相談し、以後すべての鉄道時刻表は、リヴァプールマンチェスターグラスゴーなどの現地時間ではなく、グリニッジ天文台の時刻に準ずることで合意した。 - 『サピエンス全史』

いや、これには本当に驚きました。 昔は都市間で時刻が異なることも想像すらしてませんでしたが、グリニッジが標準時刻に定められた理由も、てっきり天文学的な事情だとばかり思い込んでいたので。

このへんが歴史を学ぶ面白さでもありますね。

その後、この鉄道業界の例に倣う機関が続々と登場した。そして一八八〇年にはついにイギリス政府が、同国におけるすべての時間表はグリニッジの時刻に準ずることを定めた法律を制定するという、前代未聞の措置を採った。 歴史上初めて、一国が国内標準時を導入し、各地の時刻や日の出から日の入りまでのサイクルではなく、人為的な時刻に従って暮らすことを国民に義務づけたのだ。 -『サピエンス全史』

ここから、ラジオ・テレビの普及にともない、全世界の時刻が統一されていきました。 そしてインターネットの登場で、世界の虚構は、ますます繋がりを密にしていくのです。

さて話を現代に移します。
テクノロジーの発展により、世界の虚構はしだいに統一されていきますが、私は、現実がむしろ乖離していっているようにも思えます。

実際には、虚構の世界統一に乗らない人々も数多くいるからです。 あるいは、別の虚構の住人もいる、ということ。 あえて言うなら「欧米的でない人々」が近い表現かと思います。 グローバリズムに乗らず、ローカルな土地でローカルなルールで生きている人々は、これまで「世界」にとって存在していないも同然でした。

しかし「アメリカ的な」民主主義が終わりに近づいている今、そのような人々の存在感が増してきています。 あるいは、デジタル化されていないリアルの情報や経験に対する需要が高まっていることも同義です。 インターネットには全情報の10%しかアップロードされていないと言われているように(出典忘れたw)、「オフライン」の価値が今まで以上に高まると考えられます。

そのようなローカルな情報にアクセスするには、現地に行くしかないわけです。
つまり、ここでも「移動」。
今後さらなる大移動時代が訪れると考えられます。

インターネットで統一するかに思えた虚構は、むしろ世界中に「現実」が散らばっていることを示すことになりました。
そんな中、これからのサピエンスはどのような虚構を紡いでいくのでしょうか?

今回はここまで。 次回は産業革命


(↑本書とは何の関係もありませんが、余韻代わりにどうぞ)
(邪魔だったので末尾に移しました)